hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2580冊目】オーウェン・ジョーンズ『チャヴ』

タイトルの「チャヴ」とは、イギリスで労働者階級を指す「侮蔑語」だ。多くは公営住宅に住み、低賃金の仕事か生活保護で暮らす「急激に増加する粗野な下流階級」。これに相当する日本語がちょっと思いつかない、独特のニュアンスのある言葉である。


イギリスでは、こうした「チャヴ」へのバッシングや、彼らを馬鹿にしてこき下ろすテレビ番組がたくさんあるらしい。メディアも、政治家も、女性や有色人種は丁重に扱うが、チャヴは「何を言ってもいい対象」になってしまっているという。


本書はサッチャー時代にさかのぼってイギリスの労働者階級の歴史を辿り、なぜこうした状況が生じたのかを明らかにしていく。そこにあったのは、国策として行われてきた金融とサービス業への産業構造の転換、それによる製造業の縮小、労働組合の弱体化だった。


さらに、本来は労働者の「味方」であるはずの労働党サッチャー路線を継承、中産階級重視の姿勢を示したことで、状況はエスカレートする。もはや労働者階級の人々に残されたのは、不安定で低賃金の仕事ばかり。それもなくなれば、生活保護に頼るしかない。


なんだかどこかで聞いた話ばかりなのだが、それもそのはず、日本でもつい最近、ほとんど同じような展開があったのだ。大規模な民営化、派遣業の対象拡大、非正規雇用の増加。公務員バッシングや生活保護バッシングまで、その重なり具合は、あまりに既視感がありすぎて怖いほどである。


ちなみに、日本でサッチャーの代わりを担ったのが、莫大な公費を投じて国葬が営まれた中曽根康弘であり、最近すっかり反原発派になったが過去の所業にはほっかむりの小泉純一郎であり、その腰巾着で今も懲りずに新自由主義的「改革」を強行しようとしている竹中平蔵でありますね。


まあ、そういうわけでイギリスも日本も、お寒い事情にはあまり変わりがないことがよくわかる一冊だ。違うのは、日本では貧困層が「嘲笑」ではなく「無視」されていることくらいだろうか、まあ、どっちがマシなのかはよくわからないが(多少なりとも問題意識を感じるのは、NHKの「クロ現」くらいだろうか)。「チャヴ」が対岸の火事ではないことだけは、少なくとも確かである。