【2579冊目】宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』
児童精神科医である著者は、勤めていた病院を辞め、医療少年院に赴任します。
医療少年院とは、主に発達障害や知的障害のある非行少年が収容される「少年院版特別支援学校」。
そこで出会った子どもたちに、著者は衝撃を受けます。
簡単な足し算や引き算ができない、漢字が読めない、簡単な図形を写せない、短い文章すら復唱できない・・・
一般には「知的障害」と呼ばれるレベルに近い子どもたちが、強盗や強姦、殺人などの凶悪犯罪を犯している非行少年の中にたくさんいたのです。
単に学力が低いだけではなく、彼らは「計画が立てられない」「先の見通しがもてない」といった特徴があります。
だから、短絡的に犯罪に手を染めてしまうのです。
衝撃のデータがあります。
現在、知的障害はだいたい「IQ70未満」が対象とされています。
しかし、1950年代の一時期は「知的障害はIQ85未満」とされていたといいます。
しかし、これでは全体の16パーセントが知的障害とされてしまい、あまりに人数が多すぎる。
そうした判断から「IQ70未満」が定着したというのです。
では、これによって「IQ70〜84の子どもたち」は、知的障害児として何らかの支援を受けなくてもよくなったのでしょうか。
そんなわけはありません。
彼らは、知的障害の枠から外れてしまったことで、本来必要な支援や配慮の網の目からこぼれ落ちてしまっているのです。
著者によれば、おおむね「クラスの下から5人くらい」は、こうした状況に置かれているといいます。
彼らは、さまざまなSOSを出しています。
しかし、小学生ならまだしも、中学生にもなると、こうしたSOSは見逃されやすくなります。そのため、彼らは勉強からドロップアウトし、さまざまな問題行動に走るのです。
特に痛ましいのが、幼い子相手の性犯罪のケースです。
こうした行為に走る子どもの多くは、決していわゆるロリコンのような性的嗜好を持っているわけではないそうです。
むしろ共通しているのは、彼らの多くが学校で壮絶なイジメにあっていること。
おそらく彼らは、知的なハンディに加えて身体的にも決して強くなく、いわゆる「不良」の仲間入りができないのでしょう。
そのため、学校でのすさまじいストレスのはけ口として、無力な幼い子どもを狙うというのです。
もちろん、性犯罪は許されることではありません。
しかし、こうした少年たちに、単に反省を迫るだけでは効果がありません。「被害者の立場に立って考える」だけでも、かなりの想像力が必要です。彼らはそれができないからこそ、犯罪に走ってしまっているのです。
では、どうすればよいのでしょうか。
本書は、対象となる「境界知能」の子どもたちを早い段階で見つけ出し、簡単な認知トレーニングを定期的に行うことを提案します。
その時間は、1日わずか5分。
小学校なら「朝の会」を少し使えばできる程度です。
もちろん、これだけですべての非行少年の行動を改善できるわけではないでしょうが、
少なくとも、こうした状況を知っておくだけで、周囲の認識は大きく変わるのではないでしょうか。
そして、こうした試みこそが、少年たち自身を救うことになるのです。
本書は、そうした状況への突破口をつくった得がたい一冊。
とてもよく売れているようで、心強い限りです。特に小学校〜中学校の先生は必読でしょう。