【2581冊目】つげ義春『ねじ式』
つげワールド、としか呼びようのない、独特の味わいの一冊です。
「まさかこんな所にメメクラゲがいるとは思わなかった」
表題作の「ねじ式」は、こんな奇妙なセリフで始まります。絵も、海岸の上に飛行機らしきシルエットが飛んでいるという不気味なモノ。
メメクラゲが何なのか、飛行機の意味は、と考えても、さっぱりわかりません。
その後も、少年の「ぼく」は医者を探し、汽車に乗ってはもとの村に戻り、なぜか産婦人科医を見つけ、切れてしまった左腕の静脈にねじをつけてもらいます。
夢そのものの、妙に筋の通ったとりとめのなさがそのまま描かれていて、一度読んだら忘れられません。
つげ義春の作品は、ほかの何にも例えられません。
アートでもないし、シュールレアリスムでもない。前衛的でありながら、どこか懐かしい。どこか、人間の「業」のようなものを、見つめきっているようなところがある。
「無能の人」のごとく、そのへんの石を拾ってきてごろりと投げ出したようでいて、
そのくせ、構図もセリフも、徹底的に選び切っている。
ほんとうに不思議な漫画家だと思います。
わたしは、そんな「わからなさ」を味わいたくなると、
つげ義春のマンガを読み返したくなるのかもしれません。