【2547冊目】クリスチャン・メルラン『オーケストラ』
本文500ページ以上。索引だけで30ページ以上。おそるべきボリュームに最初はビビるが、読み始めると面白くてやめられなくなる。というか、読み終わるのが惜しくて、2カ月以上かけて寝る前にチビチビ読んでいた。
オーケストラの設立、運営をめぐる台所事情、メンバーの採用や昇格・降格、すべての楽器に及ぶ詳細なプロフィール、そして指揮者との関係と、ほぼ書かれていないことはない、というくらいに、基礎知識から笑えるエピソードまでがぎっしり詰まっている。コンサートの本番中に第一ヴァイオリン奏者が楽譜を紙飛行機にしてティンパニ奏者に飛ばした話、ベルリオーズの「幻想交響曲」で舞台裏に設置されたベルを鳴らす団員が、管理人に阻まれて舞台裏に入れてもらえなかった話、海外演奏旅行の際に税関のストで楽器がすべて止められてしまい、現地で楽器をかき集めた話など、びっくりするようなエピソードが山ほど詰まっている。
今ではどのオーケストラでも、女性団員が当たり前になったが、かつてはそうでなかったことについてもしっかり触れられている。1980年、トロンボーン奏者のアビー・コナントは、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団のオーディションを通過して第一トロンボーン奏者となったが、指揮者のチェリビダッケが反対したため、正式採用は第二トロンボーン奏者としてだった。チェリビダッケは「当然だと思わないかね。このポストは男でなければいけないんだよ」とは言ったとか。ミュンヘンだけではない。かのウィーン・フィルが初めて女性団員を受け入れたのは、なんと1997年のことなのである。
指揮者との関係もたいへん微妙なようである。中でもフランスのオーケストラ(特にパリ国立歌劇場管弦楽団)はいわくつきだという。ある指揮者とのリハーサルでは、楽団員の一人が急に「あれ、どこにいったんだ」と言って四つんばいになり、他の団員も続いた。指揮者が「いったい何を探しているんだ」と問いただしたところ、楽団員たちはこう答えたのだ。「正しいテンポです」 そういえば『のだめカンタービレ』で千秋が正指揮者に就任したのもフランスのオケだったが、あのマンガでも無能な指揮者がオケにガン無視され、怒って帰るエピソードがあった。あれもこうした「事実」を反映していたのか。
こうしたネタがふんだんにちりばめられているので、オーケストラに興味がない人にとってはチンプンカンプンだろうが、クラシック音楽やオーケストラに興味がある方にはおススメしたい。とりわけ、実際にオーケストラに入っている方は、必読。値段はすこしお高めだが、それだけの価値はあると思いますよ。