自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2535冊目】川上弘美『神様』

神様 (中公文庫)

神様 (中公文庫)


デビュー作「神様」の完成度にまず驚いた。「くまにさそわれて散歩に出る」という書き出しが良い。何の説明もなく、読者を異世界に引っ張り込む。「熊に誘われて」などと漢字を使わないのは当然。第一作にして、すでに川上弘美になっている。


「神様」というタイトルだが、神様らしきものはラスト近くに「熊の神様」という言葉が出てくるくらい。むしろ本書に収められた9つの短篇には、どれも奇妙なもののけじみた存在が登場する。「夏休み」では梨についてくる名前のないいきもの。「花野」では死んだ叔父。「河童玉」ではストレートに河童。「クリスマス」ではコスミスミコという名前の、壺をこすると出てくる若い女。「星の光は昔の光」ではえび男くんという風変わりな若い男(これだけはふつうの人間だ)、「春立つ」では穴の底にいる男(『砂の女』みたいだ)、「離さない」では人魚、そして「草上の昼食」では、くまが再登場する。


さらに不思議なのは、どの短篇でも、登場人物が奇妙な存在を当然のように受け入れていることだ。まるでこうした存在が近くにいるのが、当たり前のことであるかのように。そのあたりの感覚は、どこか川端康成や内田百閒を思わせる。


読み終わってから、あっ、と思った。タイトルの「神様」とは、キリスト教的な一神教の神ではなく、むしろ日本の八百万の神のほうなのではないか。そう考えると、ここに登場する奇妙な存在は、どこか『千と千尋の神隠し』に出てくる、もののけじみた(でもチャーミングな)神様たちのようだ。


もちろんその中には、くまが言う「熊の神様」も含まれるのだろう。不思議でシュールで、でもどこか懐かしい、川上ワールドの出発点となる一冊である。