【2190冊目】杉浦日向子『百物語』
古より百物語と言う事の侍る 不思議なる物語の百話集う処 必ずばけもの現われ出ずると
ホラー、というのではない。怪談、あるいは「奇妙な話」とでもいうべきものが、九十九話。百話目がないのは、この「百物語」のお約束。
障子に浮き出る顔の話。己の姿を見た男の話。鉄を食う化け物の話。瞼の上で踊る小さなもののけの話。恐怖や怪異は、時にさらりと、時におどろおどろしくあらわれる。説明は、ない。
毛筆で書かれているのだろうか、線がとにかく美しい。同じ作家とは思えない多彩さにも驚かされる。シンプルな線描だけのもの、モノクロームが鮮やかなもの、水墨画風のもの、太い筆で大胆に描かれたもの・・・・・・。それは正しく「マンガ」であって、同時に江戸時代の浮世絵や黄表紙などの末裔なのだ。
どの物語も、江戸時代の人びとが生きていた世界のすがたを、当時の人びとの目から捉えるように描かれている。西洋近代合理主義などという野暮なものはまだなく、幽霊も妖怪も魑魅魍魎も身近な存在であった時代。怪異譚であるにも関わらず、この本を読んで感じるのは、そんな江戸の生活への憧憬なのである。