【2482冊目】ヴィクトル・ユゴー『死刑囚最後の日』
死刑廃止を訴えるのに、若き日の文豪ユゴーが選んだ方法は、一人の死刑囚の最後の一日を克明に記すことだった。余計な要素をギリギリまで削ぎ落とし、死刑囚が最後の朝をどんなふうに迎え、死のことをどう感じ、どんな思いで断頭台までを歩いたか、ただそれだけを書き込んだ。
この死刑囚が何をしたのか、被害者はどんな思いを抱いているか、あるいは死刑囚の家族は何を感じているか。それすらも、本書にはまったく出てこない。ただ死刑囚の娘との最後の面会が、死刑囚の視点から痛ましく描かれているだけである。
思ったのは、死刑の残酷さとは、単に死を与えるだけではない、ということだ。逃れられない自分の死がその日のうちに訪れることを知りつつ、その一日を過ごさなければならないことに、死刑制度がもつ本当の非人間性がある。断頭台に向けて歩くその一歩一歩が、過酷な刑の執行なのである