【2470冊目】ウィリアム・シェイクスピア『マクベス』
言わずと知れたシェイクスピア四大悲劇のひとつである。本文わずか112ページ。だがその中に、人類の体験しうるもっとも深く、もっともおぞましいドラマが濃縮されている。
王を殺し、罪を重ねるマクベスは間違いなく「悪」である。だがその悪は、意思に基づくものというより、周囲に流される種類の悪であった。妻にそそのかされて王を殺し、魔女の予言に振り回されて王位を簒奪する。だがそれゆえに、マクベスは罪深い。
予言によって王となったマクベスは、予言の通り破滅する。森が動き、女から生まれなかった者がマクベスの命を奪うことは当初から予想できるが、いったいどのようにそれが現実化するのか。そして、人はどこまで運命に縛られ、どこまで自らの意志を全うできるのか。もっとも「女から生まれなかった者」は、「女の股の間から生まれなかった者」とすべきなのだろう。格調高い福田恆存訳にケチをつけるわけではないけれど。