自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2421冊目】本川達雄『ゾウの時間 ネズミの時間』

 

ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)

ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)

 

 

 

「サイズ」を軸に生物を捉え直した斬新な一冊。1992年の刊行ではあるが、今読んでも新鮮でおもしろい。

哺乳類はみな、一生の間に心臓を20億回打つという。呼吸の回数は5億回。物理的時間で測れば、ゾウはネズミより長い寿命をもつが、心臓の拍動を時計として考えれば、ゾウもネズミも、主観的には同じ時間を生きていることになる。

このようにして、本書はサイズが生物に与える影響を次から次へと明らかにしていく。例えば、時間は体重の4分の1乗、体長の4分の3乗に比例。酸素消費量は体重の4分の1乗に反比例、代謝量は体重の4分の3に比例するという。

極小の世界では、もっと意外なことも起きている。びっくりしたのは、サイズが小さい動物は循環系も呼吸系ももたないということ。循環系は栄養物や酸素を体全体に運ぶためのものだが、サイズが小さければ自然の拡散だけで十分行き渡る。

呼吸系はさらにびっくりだ。そもそも動物は、体の表面から酸素を取り込み、体全体で消費する。したがって、酸素の取り込み量は動物の表面積に比例し、消費量は体積に比例する。

ところが、体積と表面積は比例関係ではない。体積が増えても、表面積は同じようには増えないのである。そのため、体積が必要とする酸素の量に、表面積で取り込める酸素の量が追いつかないということが起きる。そのためサイズが大きな動物は、酸素を取り込むために特別に表面積を増やしたのだ。これが人間では「肺」なのである。

さらに本書は「なぜ動物は車輪を採用しなかったのか」「ヒトデはなぜ捕食されないのか」「なぜ昆虫はある程度以上の大きさにならないのか」などの疑問を取り上げ、鮮やかに解き明かしている。生物の不思議とは、人間の不思議でもある。そして大事なことは、人間にとって都合のよい「サイズ」だけで、世の中が回っているわけではない、ということなのである。