自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2407冊目】杉浦日向子『東のエデン』

 

東のエデン (ちくま文庫)

東のエデン (ちくま文庫)

 

 江戸を舞台にした作品が多い杉浦日向子だが、本書は幕末から明治あたりの、日本と西洋が交錯し始めた頃を描く。 「極東の楽園なんて嘘っぱちじゃないか」という外国人の目から見た日本を皮肉っぽく描いた表題作のほか、名作『百物語』を思わせる「やまあり」「仙境」、それに明治の若者を描いた連作「閑中忙あり」に、同じ登場人物の「ぶどうのかおり」。 若者たちの姿を活き活きと描く「閑中忙あり」も良いが、凄みを感じるのは「仙境」だ。森が魔境であった時代の、吸い込まれるような描写が見事。

巻末には「たのしいくらし」という短い文章が収められている。これがまた著者らしく、とても良い文章なのだ。好きな箇所。

「毎日が、穏やかに過ぎて行きます。朝起きて、食事して、トイレして、自転車漕いで、風呂入って、少し酒飲んで、眠ります。無事これ名馬の伝にならえば、何事もない日々こそが最良の人生なのかもしれません。惰眠の日々を、思う存分にむさぼっています。生きてここにあることを忘れてしまいそうなほど、しあわせです」