自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2383冊目】ジョージ・フリードマン『新・100年予測 ヨーロッパ炎上』

 

 

著者は地政学のエキスパートで、民間のインテリジェンス企業「ストラスフォー」を創設、「影のCIA」と呼ばれる人物。その精緻な分析と大胆な考察に圧倒される一冊だ。

本書のテーマは「ヨーロッパ」である。日本にとってヨーロッパは、先進的で理性的なイメージがあり、明治以降、一貫して目標としてきた地域であった。だが、本書を読むと、ヨーロッパに対する見方がガラリと変わる。なにしろ著者の原点となっているのは、ヒトラースターリンから追われ続けたハンガリーユダヤ人の両親のもとに生まれ、共にアメリカに逃げた幼少期の経験である。両親は「ヨーロッパ人の心の中には恐ろしく邪悪なものがある」と確信していたという。

「その邪悪なものは普段は隠れていて見えないが、状況によって外に現れる。アメリカにいると、物事は様々な取り決め、決断によって進んでいくように感じられる。しかし、ヨーロッパでは事情が違う。ヨーロッパではどこかで何かが取り決められたり、決定されたりしても、それだけでは何の意味も持たない。ヨーロッパでは、どこかである時、ひとりでに歴史の雪崩が起き、その雪崩に誰も彼もが押し流されるのだ」(p.17-18)

 

 

とはいえ、むろんこの「邪悪なもの」とは、ヨーロッパ人自体を差別して言っているのではない。むしろヨーロッパの置かれた地理的条件や辿ってきた歴史が、そうした状況を形作ってきたのである。例えばドイツがヒトラーを生み出したのは、フランスとロシアに挟まれていたこと、近代まで分裂状態であり統一国家が形成されなかったことなどが複雑に絡み合って影響している。2008年にロシアがジョージアグルジア)に侵攻したのも、イギリスがEU離脱を決めたのも、別にプーチンが悪いとか、キャメロン首相やメイ首相が愚かなわけではなく、それなりの地政学的必然があって起こったことだ。だから著者のようにそれを読み解く術を持つ者にとっては、「予測」が可能なのである。

したがって、戦争についても、戦争の悲惨さを語り継いだり平和運動をすることが抑止になるというような甘っちょろい考えはありえない。著者は言う。

「人間が戦争をするのは、愚かだからでも、過去に学んでいないからでもない。戦争がいかに悲惨なものかは誰もが知っており、したいと望む人間はいない。戦争をするのはその必要に迫られるからだ。戦争をするよう現実に強制されるのである」(p.492-493)

 

 

身もふたもないといえばそれまでだが、日本が本当に「平和教育」をしたいのであれば、本当はこのリアリズムから出発しなければならない。まずは、過去に戦争が起きた時の事例を取り上げ、「何が(どのような地政学的状況が)戦争を現実に強制したか」を、日本も含め、複数調べて比較してみてはどうだろうか。そうすれば、現実に防げるかどうかはともかく、新聞やニュースから戦争の萌芽を感じ取れるようになる可能性はある。

ちなみに、現在のヨーロッパで著者が一番危機感を持っていると思われるのが、EUの解体だ。ギリシャ危機や難民問題、イギリスの離脱をめぐる動向などに、その予兆はすでに現れている。EUの誕生から今まで、少なくともヨーロッパ内部で戦争は起きていない。EUがある程度の抑止力になっていたとすれば、その蓋が外れてしまったら、またもやヨーロッパが戦火に巻き込まれる可能性は少なくない。バルト三国コーカサスバルカン半島など、火種はあちこちに転がっている。