【2210冊目】角幡唯介『雪男は向こうからやって来た』
「人間には時折、ふとしたささいな出来事がきっかけで、それまでの人生ががらりと変わってしまうことがある。旅先で出会った雪男は、彼らの人生を思いもよらなかった方向に向けさせた。そこから後戻りできる人間はこの世に存在しない」(p327)
雪男なんていうと、いかにもトンデモ本っぽく見えるが、本書は著者らがガチで雪男を追い求めた日々の記録である。
突然思い立ったワケではない。そこには、探検家たちの間で脈々と受け継がれてきた「雪男伝説」があったのだ。海外ではイギリスやソ連の探検家による足跡の発見や目撃情報があり、日本でも、芳野満彦、鈴木紀夫といった偉大な登山家、探検家が雪男との遭遇を証言した。鈴木紀夫に至っては、雪男を求めて6回にわたりヒマラヤの高峰ダウラギリ群に赴き、ついに雪崩に巻き込まれて命を失ったのだ。
そうした探検家たちからバトンを受け取ったのが、著者を含む高橋好輝らのチームである。本書は過去の「雪男発見歴」を辿りつつ、著者らの壮絶な探検の記録をまとめたものだ。大雪や雪崩のリスクの中で「雪男探し」という一見荒唐無稽とも思えるミッションに真剣に取り組むさまは、ある種感動的ですらある。
その結果、著者らは雪男に出会えたのかどうかについては、ぜひ本書をお読みいただきたい。私はむしろ、ラスト近くで明かされた本書のタイトルの意味に、ガツンと頭を殴られたような気になった。
私にとっての「雪男」とは、果たして何なのだろうか。それはすでに現れたのか、あるいはこれから現れるのだろうか。