自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2353冊目】ロアルド・ダール『あなたに似た人』

 

あなたに似た人 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 22-1))

あなたに似た人 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 22-1))

 

 
いわゆる「奇妙な味」と言われる短編を収録した一冊。オチの意外性や切れ味というより、文字通り「後味」そのものが印象的だった。驚きというより、じわじわと「来る」感じが楽しい。

冒頭の「味」という短編が、いきなりスゴイ。ワイン通を自認する客の不愉快さをくどいくらいに描き、「ワインの銘柄を当てたら娘と結婚させる」という無茶な賭けに話を持ち込む。提供されたワインを味わいつつ、徐々に銘柄を絞り込んでいくのだが……

人間を描くうまさでも、ダールは相当なものだ。それも、ちょっとしたしぐさや表情から、不安や興奮、悪意やあわれみなどの感情を浮かび上がらせるのがうまい。だからこそ、他の作家にはない独特の味わいが残るのだろう。『チャーリーのチョコレート工場』や『おばけ桃の冒険』など、ダールは児童文学でも秀作が多いのだが、こちらも発想の奇抜さに加えて、登場人物が実に活き活きと描かれている。だからこそ、子どもも大人も読んで惹き込まれるのかもしれない。

ちなみに、本書の訳者は詩人の田村隆一(実は新訳も出ているが、私はこっちの方が好き)。田村隆一の翻訳は名訳が多くて私は好きなのだが(アガサ・クリスティなど、卓抜な名訳だ)、本書も見事な翻訳。訳文のもつ「香り」と「リズム」も、ぜひ一緒に楽しんでほしい。