自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2339冊目】岡ノ谷一夫『「つながり」の進化生物学』

 

「つながり」の進化生物学

「つながり」の進化生物学

 

 

「さえずり言語起源説」で有名な著者が、高校生に向けて進化生物学を語る。キーワードは「コミュニケーション」。「言葉」から「心」まで、他者とのつながりが我々に何をもたらしたのか、最前線の仮説も交えつつわかりやすく語っていく。

なるほど、と思ったのが、なぜ人間の赤ちゃんは大声で泣くのか、というくだり。産まれてすぐに泣く動物はそれほど多くない。著者は人間の赤ちゃんが泣く理由を「人間には毛がないから」だという。例えばサルの子どもは、母親の毛につかまって移動する。人間の子どもはこれができないので、母親に置いていかれないように、かまってもらうために「泣く」のだという。

では「言葉」はどうか。著者は「歌」がその起源にあるという。ここは「さえずり言語起源説」の本領発揮といったところ。鳥のさえずりのように、人間はさまざまな「歌」を歌うことで、コミュニケーションを図ってきたらしい。求愛、狩り、食事など、それぞれにメロディーがある。中には「狩り」と「食事」に共通の内容(例えば「みんなでやろう」)があり、その部分は同じフレージングだったかもしれない。こうした特定の意味を持ったフレーズを「切り分ける」ことが、言葉のルーツになったのではないかというのである。

ポイントは「分節化」。ひとつながりの対象をある部分で区切る。さらには、区切られたパーツを組み合わせて、別のフレーズを作る。著者はこれを「相互分節化仮説」と呼ぶ。まだ仮説の段階とは思われるが、なかなかに興味を惹かれるものがある。思えばワーグナーの音楽など、こうして意味ごとに「分節化」されたフレーズを縦横に組み合わせることで、巨大な楽劇を作り上げているのである。

コミュニケーションはさらに「心の発生」にまでつながっていく。本書は「自分の心、自分の意識はあるに決まっている」というデカルト的な仮説をいったん脇に置いて、他者の心の予想を映し鏡のようにして、自分の心が生まれたと考える。

「最初は他人に心があると仮定して、他人の行動をうまく予想することが適応的になった。次に、他人の心を予想するシステムをミラーニューロンで照り返し、流用することで、自分の心を予測するようになったのではないか」(p.251)

 

 

となると、心もやはり、言葉と同じように「他者」の存在からはじまったといえることになる。この仮説のトリッキーなところは、実際に他者に心があるかどうかを問題にせず、「他者に心があると想定する」こと自体が自分の心を生み出すとしている点だ。言い換えれば、いささかややこしいことではあるが、人間という生物にとっては「他者に心がある」と仮定し、想定することのほうが合理的なのである。