「ハーフの子を産みたい方に。」のおぞましさ
3年前のポスターだというから、まあ今さらと言えば今さらの騒ぎなのだが、こういう炎上の仕方がなんとも今の時代らしい。
気持ち悪いとか意味わかんないとかいろいろ言われているようだが、戦後の「パンパン」とか「混血児」の話がここで出てこないところが、まあ時代の変化ということなのかもしれない(ちなみに、いずれも差別語ではありますが、ここではわかってて文脈上使っています。念のため)。でも、それでいいんだろうか、日本人。
「ハーフ」といえば大坂なおみ、という今の世の中、そこに痛ましさやせつなさを感じる人も少なくなったのだろうが、かつては「ハーフ」でダイレクトに連想されたのは、戦後の混乱期に貧窮のあまり売春で生計を立てざるを得なかった日本人女性(いわゆる「パンパン」)と、米軍兵士の間に生まれた子どものことだったはず。彼女たちの中には、それこそ和服を着て街頭に立った人もいるだろう。それ以外にも、恋愛の末ならまだしも、レイプされてハーフの子を産んだ女性だって当時はざらにいたのである。そのことを少なくとも「知って」いれば、こんなポスター、作れるはずがない。
そういうことを都合よく忘れてしまう日本人の国民性は嫌いではないのだが、戦災孤児や原爆症も含め、あの戦争のもたらした「痛み」を、私たちはどこかで持ち続ける必要があるんじゃないかと思うのだ。いちいちこの手の話をドイツと比較するのは嫌なのだが、あえて言えばあのポスターがもつ醜悪さは、例えて言えばドイツやイスラエルで強制収容所を茶化したポスターを作るようなものだろう。
ちなみに、そんな「混血児」たちを支援するため私財をなげうった女性がいることも、ついでに知っておいてほしい。彼女の名は澤田美喜。かの岩崎弥太郎の孫であり、「エリザベス・サンダース・ホーム」を建てて混血孤児2000人を育てた人物だ。個人的な印象を言えば、岩崎弥太郎の百倍エライ人物だと思っている。
母と子の絆―エリザベス・サンダース・ホームの三十年 (1980年)
- 作者: 沢田美喜
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