自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2334冊目】伊谷純一郎『高崎山のサル』

 

高崎山のサル〔C29 講談社文庫 260〕(1973年)
 

 

インスタグラムからの転載。古書で買ったので講談社文庫だが、今は学術文庫のほうで出ている模様。

日本サル学の道を開いたと言っても過言ではない一冊だ。のちに日本の霊長類研究の第一人者となる伊谷純一郎が、若き日々に没頭したフィールドワークの成果である。

こう書くと、ずいぶん堅苦しい本を想像するかもしれないが、実はこの本、ノンフィクションとして抜群に面白い。サルの群れを追って一日じゅう山の中を歩き回り、あるいは観察のため何時間も一箇所にとどまり、聞こえてくる唸り声やほえ声からサルの「言葉」を分析し、時にはサルの群れの真ん中に飛び込んでいく。とにかくものすごいバイタリティなのである。

身一つ、という姿勢が印象的だ。「あとがき」では、電波の発信機をとりつけてアフリカのサルを追うという研究方法を手厳しく批判する。

「私は体質的に、真空管と銅線を複雑にはんだでくっつけた、人間の頭脳の傀儡であるかのごとき機械を好まない。それがアフリカの自然の中に存在することは違和であり、野外研究者の人間喪失を象徴するものとしてしか私にはうつらない。アフリカにおいて、自然との接触は直接であるほどよく、荷物は軽いほどがよい。素直に目で見、心で感じ、そしてあの広大な大地を何よりも信頼のおける自分の足という輸送機関で、肩で風を切って歩くことができないのなら、私はアフリカに行くことをとっくに止めていただろう」(p.306)

 

著者のことを書くあまり、肝心の、高崎山のサルの生態に関する面白い発見に触れられなかったが、これもまためっぽう面白いので、機会があればぜひご一読を。ポイントは、サルの群れにおける秩序とヒエラルキーを鮮やかに描き出したこと、「馬のり」(今で言うマウンティング)という一見奇妙な行動が、この階層構造を形成、維持するための絶妙の仕掛けになっていること。子ザルの「遊び」に注目したところも興味深い。

それにしても、サル学はなぜこんなに「気になる」のだろう。サルたちの集団に、どこか人間社会の原型が垣間見えるからだろうか。それとも、人間社会が失ってしまったなにかを、彼らがいまだに持ち続けているからだろうか。