自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2206冊目】阿川佐和子『聞く力』

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「話を聞く。親身になって話を聞く。それは、自分の意見を伝えようとか、自分がどうにかしてあげようとか、そういう欲を捨てて、ただひたすら「聞く」ことなのです」(p.148-149)

 



2012年のベストセラー。いまさら手に取るのもちょっと悔しいが、さらに悔しかったのは、読んで目からウロコがボロボロ落ちたこと。ああ、もっと早く読んでおけばよかった!

「聞く」にも、いろいろある。特に、仕事で「聞く」場合、必ず何らかの目標なり、「聞くべき内容」があるものだ。私が今やっている福祉の仕事で言えば、相手の悩み事を(その場で解決策を求めようとせずに)ひたすら「傾聴」することもあれば、目の前に迫った危機を回避するための方法を検討するための「情報収集」として話を聞くこともある。あるいは調査として聞き取る場合、80項目もの決まった内容を、それぞれ具体的に聞かなければならない。

いくら「決まっているから」といって、脈絡なく機械的に聞かれたら、答えるほうだって機械的になってしまう。だが、相手の脱線にいつまでも合わせていたら終わらない。さて、どうするか……。こんな「場面」はしょっちゅうだ。本書はベースがインタビューなので、基本的には「脱線でも面白ければそっちの方へ」といったスタンスなのだが、それでもいろいろヒントが隠されている。

トークは生もの」という鶴瓶さんのセリフが印象深い。結局、どんな場面にせよ、会話というのは自分と相手という「場」と「流れ」によって作られてしまうものなのだ。大事なのはそれを寸断することではなく、かといって漫然と「流れのままに」脱線しまくることでもなく、うまくナヴィゲーションしていくことなのかもしれない。

そして、ひたすら「傾聴」という場合に大事なのが、冒頭の心構え。いやいや、相談を受けていると、何かエラそうな人生訓みたいなことを言いたくなっちゃうんですよね。でも、絶対ダメ! 聞き手は水を向けるだけ。人生訓はその人自身が発見するのです。