自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2042冊目】テンプル・グランディン『自閉症の脳を読み解く』

 

自閉症の脳を読み解く―どのように考え、感じているのか

自閉症の脳を読み解く―どのように考え、感じているのか

 

 



著者は学者であって、自閉症の当事者。つまり自閉症を「外から見る」ことも「内から見る」こともできる。これは言い換えれば、研究者として「無敵」である、ということだ。

例えば本書では、自閉症者の「過敏性」が強調されている。いわゆる「感覚過敏」である。例えば(個人差はあるが)ちくちくする服を着ると「火であぶられている」ように感じたり、サイレンの音を聞くと「ドリルで頭に穴を空けられている」ような気がする。ある研究者はこれを「強烈世界症候群」と名付けたという。脳が受け取る感覚情報が多すぎるのだ。だから多くの自閉症者は、狭い行動範囲の中に自らをとどめ、安全な定型行動を繰り返すようになるのだという。だがこの感覚過敏の存在は、自閉症者自らが語りだすまでは、あまり意識されてこなかった。

こうした「内部からの視点」と同時に、本書では研究者としての「外部からの視点」も十分に取り入れられている。特に脳画像の分析は素晴らしく、自閉症が「しつけ」の問題などではなく、脳の配線が普通の人と異なっていることから起きるものであることがよくわかる。

そして、本書は単なる自閉症の症状解説にはとどまらない。むしろこの本の眼目は、こうした様々な視点や研究結果に基づいて自閉症をよく知った上で、その「強み」をどのようにして生かしていくべきかについての考察にある。

著者の自己観察も踏まえた「3つの思考法」がおもしろい。著者によれば、人には「画像で考える人」「パターンで考える人」「言語・事実で考える人」がいて、それぞれの特性に合った教育や就労のカタチが必要になるというのである。

例えば「画像で考える人」だったら、実践的な活動を好む場合が多い。抽象的な数字を扱う算数は苦手だが、具体的な品物などの事例があれば、頭にその画像が浮かぶから大丈夫だ。こうした子供たちが相手なら、なるべく具体的で実践的な教え方をしたほうが良いらしい。

「パターンで考える人」だったら、見た目にとらわれず「相関関係の背後にあるパターンを見抜く」ことが得意。子供であれば、算数や、ちょっと意外だが音楽が得意なことが多いという。

「言語・事実で考える人」の場合、言語化されたデータに強い。歴史の年表や野球の記録などが頭に入っていたりする。この場合はまさに「文章を書く」ことが強みとなる。ちなみに私はたぶんこのタイプ。著者は「画像で考える」タイプだという。

さらに言えば、自閉症者の「強み」に着目するとは、自閉症という「症状」「障害」によってその人を見るのではなく、ひとりの人間として相手を見たうえで、その強さを活かすということでもあるように思う。われわれはどうしても「自閉症」という診断名がついた瞬間から、その人を「自閉症の人」「障害者」と捉えてしまいやすい。

 

もちろん、早期に必要な診断を受け、適切な療育につなげることは必要だ。だが、同時にわれわれは、その人をあくまで一人の「人間」として捉えるようにしなければならないのである。その上で、自閉症ならではの「強み」を仕事に生かしていったほうが、自身も周囲もハッピーなのではないだろうか。