【1252冊目】西川一誠『「ふるさと」の発想』
- 作者: 西川一誠
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2009/07/22
- メディア: 新書
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先日紹介した『行政ビジネス』からたどりついた一冊。『行政ビジネス』では、福井県の観光営業部の方が一方の著者としてその「営業」の取り組みを紹介されていたが、本書は福井県知事自身が、福井のみならず日本全体における「都会」と「地方」のあり方を問うものとなっている。
キーワードは「新しいふるさと」。
「新しい」と「ふるさと」。ふるさとを単に「そこにある」というだけではなく「自らが主体的につくり上げる」(p.113)ものと見るのが、この発想のキモである。そして、その背景には、現在の都市と地方の関係に対する、著者の知事としての強烈な危機感があるように思われる。
では、「新しいふるさと」をつくるには、どのようにすればよいのか。著者はこれに対して「つながりの共動社会」というもうひとつの概念を示す。行政と住民、そして住民同士が「目的を共有して一緒に行動する」ことだという。人と人とのつながりこそが「ふるさと」のための基本要素になるのである。
本書でも言及されているが、それはパットナムの「ソーシャル・キャピタル」概念に近い。実際、イタリアの地域比較研究によってパットナムが明らかにしたのは、まさにこのソーシャル・キャピタルのありようが地域の活発さや暮らしやすさを規定するということであった。
ただ、日本の場合、そこで考えなければならないのは、「都市」と「地方」のアンバランスである(イタリアの場合、地方ごとの個性や独立性が強いため、日本とは少々事情が異なる)。
本来、両者は互いに支え合う関係にあるはずなのだが、現状では、都市に人口や情報や財貨の「過剰」が起きている。したがって、地方をなんとかするためには、そのバランスを意識的に「地方側」へと振り向けなければならないのだ。本書はそのための「福井県バージョン」の提案書である。しかし、その基本に流れる考え方は、他の自治体でも十分参考になることと思う。
「住民の生活の実情を知る自治体こそが適切な対策を立て、実行することができる。結局、住民の生活、つまりふるさとを最後に守ることができるのは自治体だけだということなのだ。地方分権の必要性もここにある」(p.183〜184)
なお、本書では2004年の福井豪雨災害の経験をもとに、自治体の災害対策の重要性についても触れている。その内容は、大震災後の今読んでも納得できる部分も多い。次のコトバなど、被災地の自治体の方にとっては、身に沁みるものがあるのではないだろうか。
「どのような災害であってもどんなに制度ができ上がっても、災害の一番大事な最初動、そして、将来へと続くことになる復興はだれも代わってくれない。それはふるさとを守る自治体の仕事である」(p.180)
もっとも、本書では想定しきれていないこともある。災害によって多くの自治体職員自身が命を落としたり、インフラ自体が破壊される、といった、いわば役所の災害対策機能そのものが破壊されるという事例である。東日本大震災で起きたのは、まさにそういった「根こそぎ」の破壊であった。したがって、僭越ながら本書の内容を少しだけアップデートするとすれば、「自前」での災害対応や復興に加えて、普段からバックアップ機能や相互援助協定のような、二重三重の防護策を取っておかなければならない、という点だろうか。