【451冊目】手島孝「学としての公法」

- 作者: 手島孝
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2004/03
- メディア: 単行本
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「はしがき」に、こうある。「読者、あるいは開巻劈頭で度胆を抜かれるかも知れない」……確かにその通りであった。何しろ、この本は「学問とは何か」というところから始まるのである。第1章1「学とは」の参考文献を見ると、老子、ヴィーゴ、マックス・ウェーバー、ヤスパース……。そこで行われているのは、古今東西の思想・哲学を縦横に踏まえた、現代の学問の「タコツボ化」への批判である。そして、本書を読み進めていくと、この始まり方がまさに本書全体を象徴していることに気づかされる。
本書は「公法」に関する総合的な教科書であり、解説書である。従来、憲法や行政法等の分野で公法理論が語られることはあっても、「公法」自体について集中的に語られることは少ない。それどころか、公法と私法の区別自体についても否定的な議論が行われている。本書は、そうした状況を踏まえた上で、国家、公共といったものの本質にまで切り込み、公法というフレームで公共論、公−私関係論を整理し、展開してみせている。その方法は、冒頭の一章の勢いのまま、法学の狭い枠組みに必ずしもとらわれない縦横無尽の理論構築。まったく、実にクセが強くユニークな「法律書」である。好き嫌いがはっきり分かれそうな書き方だ。
私個人の印象は、前半はちょっととっつきづらく、何が言いたいのかなかなか見えてこなかった。むしろ冴えを感じたのは後半部分の、公法事務(いわゆる行政事務)や公法関係の分類・整理の仕方。簡単な図表でそれぞれ場合分けされているのだが、この著者ならではの広い視点から実に的確に整理されており、非常に参考になった。また、民主制に関する議論も、単なる現状の制度説明に終始せず、プラトンやローマ法を引きながらコンパクトながらも本質的な議論となっており、読み応えがある。個性的といえばこれほど個性的な教科書も珍しいが、その分、これまでと違った視点で公法学全体を眺めることができるため、参考になる点が多かった。