【695冊目】大石嘉一郎『近代日本地方自治の歩み』
- 作者: 大石嘉一郎
- 出版社/メーカー: 大月書店
- 発売日: 2007/04
- メディア: 単行本
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解説を読んで初めて知ったのだが、本書は、著者の大石氏が亡くなった後に、遺された原稿を編集して出版したものだそうである。内容は、明治維新から太平洋戦争までの日本の地方制度の形成と発展、そして失墜をめぐる通史となっている。
正直、読んでいて面白いと思うたぐいの本ではない。著述の仕方もきわめて堅実、テーマもやや地味なものといわざるをえない。しかし、その一見平板な文章の中に、日本の近代地方制度の「立ち上がり」が時折見えてくるところがあり、おっと思わせられる。残念なのは、戦前の地方制度をめぐる議論や運動と戦後の地方制度とのつながりがあまり見えなかったこと。
だいたい、明治から昭和前期までの地方制度の流れというのが一筋縄ではいかない。大きくアウトラインを取れば、中央集権国家の「手足」として地元有力者を駆使した初期地方制度から、有権者の範囲が広がることでその支配体系が崩れ、地方が国家にとっての不安定要因になりはじめる。しかし、その決定打となるはずの普通選挙制度が悪名高き「治安維持法」と抱き合わせで成立、その「牙」を半ば抜かれた格好になり、さらに、戦争に向けての挙国一致が求められるなかで地方自治は衰退して再び「国家の手足」となり・・・・・・ということになるのだろうが、ここにさらに国と地方の財政をめぐる問題、自然村が解体されて行政村となることによる地域コミュニティの崩壊、米騒動に始まる民衆運動との関係などが縦横に折り重なるのである。そのため、大筋の流れだけを追っていると肝心の「地方制度の複雑骨折現象」が見えづらくなり、細部にとらわれると全体が見えなくなる。実にややこしい。
本書はその解きほぐしにそれなりに成功しているように思われるが、具体的な事例がやや細かすぎ(研究色が強すぎ)全体をとらえる妨げになっている気もしなくはない。まあ、そのあたりは読み手が努力してきちんと読み解いていけばよいことであって、私も、本書を読む時には、前に宮本憲一氏の著書を読みながらとったノートと年表を脇に置いて、それに重ね合わせるように本書を読んだ(そのぶん、ずいぶん時間がかかってしまったが)。大正デモクラシーと地方自治の関係も含め、このあたりはまだまだ知るべきことがたくさんありそうである。