自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【452冊目】岡本全勝「新 地方自治入門」

新 地方自治入門―行政の現在と未来

新 地方自治入門―行政の現在と未来

前に、ガバナンスで「自治体職員にお薦めの3冊」という特集をやっていた。その中で、岡本全勝氏が本書を「自薦」されていたのだが、紹介文がこうであった。「地方自治が日本においてどのように機能しているのか、そして課題は何かを、全体的にとらえた本は見あたらないのです…(略)…未だにこの本を超えるものを見つけないので、拙著ですが挙げさせてもらいました。」すごい自信だな、と読んでびっくりしたのを覚えている。本書を手に取ったのは、そこまで言える本なの? という疑い、あるいは冷やかしの意味もあった。

ということで、読後の感想であるが、結論から言えば「看板に偽りなし」の一冊。地方自治全般を論じた本として出色である。東大大学院での講義を活字にしたとのことだが、確かに適度にわかりやすく、資料もふんだんで、具体的な議論がきちんと普遍的な議論につながっている。著者は総務省の官僚だが、その見方はむしろ地方寄りに近く、国と地方それぞれの問題点をバランスよく挙げつつ、今後の地方自治の可能性について丁寧に論じている。明治維新後、戦争を挟んでほぼ高度成長まで続いた、欧米へのキャッチアップを国是として突き進んだ国・地方の関係が大きく変わりつつあり、あるいは変わることを求められていること、にもかかわらずそれに対応した制度の転換がうまくいっていないことなど、同じような議論は他の本でも見られるが、ここまで懇切丁寧に論証したものは初めてであった。また、国・地方関係の歴史、地方分権の問題、国と地方の財政についての解説といった基本的なところから、「公・共・私」の公共論、時間を軸とした行政のあり方の再検討など、非常にはっきりと整理されており、論点がぼやけることがない。

繰り返しになるが、地方自治の総論を扱った類書の中では決定版と言ってよいほどの充実した内容。お薦めである。