自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【224冊目】唯円「歎異抄」

歎異抄 (岩波文庫 青318-2)

歎異抄 (岩波文庫 青318-2)

親鸞の教えについて、弟子の唯円が異説の横行を歎いて正しい内容を述べたとされる本。

親鸞の教えには、有名な「善人なをもて往生をとぐ、いはんや悪人をや」(善人であっても往生できるのだから、悪人が往生できるのは当然である)に代表されるように、一見逆説的で矛盾しているように思えるものが多い。異説が横行するのも、理解しやすいとはいえない親鸞の思想を、安易に自己の理解にひきつけてしまうことによるのだろう。その中で本書は、親鸞の思想の屹立する独自性をそのままに伝えようとしている。そして、逆説にみえる親鸞の言葉が、実はその裏に強烈なロジックをもっていることが分かる。

そのロジックの基礎にあるのは、「他力」ということである。「自力」で善行を積んで成仏しようというのは、一見すると殊勝な考え方のようだが、実はその裏には自力に対する過信があり、傲慢さがあるということになる。悪人ほど往生しやすいというのも、善人は自力を恃みにするところが多いのに対して、悪人は他力にすがるところがあり、その点でむしろ善人よりも仏の御心に近いということである。その考え方を徹底していくと、ひたすらに念仏を唱えることだけが往生への道であるという浄土真宗の思想に行き着くことになるのである。そもそも、善悪そのものが人の身に与えられた「業」であり、それを自力で何とかしようという発想自体が傲慢なのである。

このように、本書で説かれるのは、仏に比べた自己の無力さに裏打ちされた徹底的な「他力本願」への道である。今ではおとなしい葬式仏教になってしまった浄土真宗が、そもそもはおそろしくラディカルな思想をもっていたことが分かる。もっともそれは、どんな宗教もその始まりにはもっていた原理のエネルギーなのかもしれない。