hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【223冊目】ロバート・D・パットナム「哲学する民主主義」

哲学する民主主義―伝統と改革の市民的構造 (叢書「世界認識の最前線」)

哲学する民主主義―伝統と改革の市民的構造 (叢書「世界認識の最前線」)

大規模な地方制度改革が行われ、集権的国家から州を中心とした分権型国家に転換したイタリアでは、州ごとの地方政府改革や政策の充実度の差が顕著にあらわれるようになった。特に北部と南部の差は著しく、その様相は、それ以前から経済力の格差について言われてきたイタリアの南北格差とぴったり重なるものであった。本書は、そうしたイタリアの州ごとの制度パフォーマンスをさまざまな角度から検証し、かかる格差が生じてきた理由を探るものとなっている。

特にその焦点となっているのが、それぞれの地方における伝統的な市民共同体のあり方と、行政や政治、経済的な水準の相関性である。著者によれば、「うまくいっている」地方の共同体に共通するのは、「互酬性の規範」や「市民的積極参加」に基づく循環がうまく回っていることであり、この好循環が社会資本となって高い制度的パフォーマンスを生み出しているという。そして、こうした社会的信頼のネットワークは一朝一夕に築かれるものではなく、イタリアの例で言えば、中世の北イタリアで発祥した「コムーネ共和主義」と呼ばれる共和的都市国家の伝統にさかのぼるという。

したがって、こうした社会資本の蓄積は、今から始めてすぐに効果がでるものではなく、その意味で本書は、社会資本の蓄積が少ない南イタリア的な地方にとっては、かなり酷な結論を提示するものとなっている。しかし、著者は、だからといって社会的信頼のネットワークを築く努力をやめるべきではないという。それは現在の地方改革のためというより、そうした努力がずっと先には実を結び、将来の社会資本の形成につながるから、という理由である。

本書の結論は、アメリカにおけるデモクラシーの定着を説いたトクヴィルの提示した結論に近い。いずれにせよ、制度はどんなに素晴らしいものであってもそれだけで定着するものではなく、それを受け入れる土壌がどれくらいしっかりしているか、市民的伝統という養分をどれほど含んでいるかによるのであろう。日本の民主主義の定着や、地方の制度的パフォーマンスを考えるにあたっても示唆されることの多い本である。