自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【92冊目】内田樹・名越康文「14歳の子を持つ親たちへ」

14歳の子を持つ親たちへ (新潮新書)

14歳の子を持つ親たちへ (新潮新書)

タイトルは育児書っぽいが、内容はむしろ、現代社会の子ども論、親子論全般を広く扱うものとなっている。また、いろいろな問題点は指摘されるものの、解決法がはっきりと提示されるわけではない。むしろ、解決法などない、ということが、本書のひとつの答えとなっている。

子どもを持つ親として、本書はかなり「怖い」本である。本書を読む限り、問題を抱え、病んでいるのは子どもよりむしろ親のほうである。われわれの世代の多くは、核家族という狭いユニットの中で、マスコミや育児書の情報を頼りに子育てをしている。特に問題なのが、マニュアルやノウハウを求め、理屈立てて子育てをしようとする一方、身近なコミュニティの中で身体を動かして具体的に実践し、いろいろ経験していくという体験に欠け、身体的感受性がきわめて低い親の存在だ。彼らはそのため、子どもの微細なシグナルを読み取ることができず、コミュニケーションをうまくとることができない。著者らは、そういった親子関係が、子どもの発育過程に重大な影響を及ぼしているという。

本書ではさまざまなトピックが縦横に語られているが、ひとつの軸となっているのが、「身体性」の復権である。すなわち、思考に頼りすぎず、感覚や感性を研ぎ澄ますこと、具体的な日常の生活を大切にし、テンポラリーな人間関係を大事にすること。それらを、まず親である大人自身が心がけていかなければならないというのである。

そして、「14歳の子ども」については、その年齢の子どもが心身の急激な変化の中にあり、特に「思考や情念の暴走状態」になりやすいこと、安易に子ども扱いするべきではないことが指摘される。確かに、自分が14歳だった頃を思い返すと、表向きは頭の中ではけっこうとんでもないことを考えていた覚えがある。抽象的な想念が暴走し、わけもなく世の中に絶望し、毎日のように世界崩壊の血みどろの妄想に浸っていた。酒鬼薔薇の事件があったとき、回りは「14歳の子どもが?」と驚いていたが、「分かる分かる、一歩間違えれば自分がやってもおかしくなかったな」とひとり考えたことを思い出す。