自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1670冊目】雨宮処凛『14歳からわかる生活保護』

14歳からわかる生活保護 (14歳の世渡り術)

14歳からわかる生活保護 (14歳の世渡り術)

本書の内容を、QA形式でサマライズしてみました。たぶんこの本には、こういう紹介の仕方のほうがよさそうなので。

Q1:生活保護って、要するに何ですか?
A1:「この国で、最低限死なない方法」です。

Q2:でも、生活保護を受けるのは恥ずかしいことなんじゃないですか?
A2:そういう発言をすることのほうが、ずっと「恥ずかしいこと」です。

Q3:生活保護を受けている人の多くは「働けるのに怠けている」人だと聞きましたが、本当ですか?
A3:生活保護受給者全体に対して、20〜64歳の「稼働年齢層」の割合は16.2%。それも半分以上が50代以上です。

Q4:生活保護を受ける人がどんどん増えていると聞きましたが、本当ですか?
A4:でも、生活保護を受けられるのに受けていない人のほうがずっと多い。日本では、受けられる人の3割程度しか実際に生活保護を受けていません。これを「捕捉率」と言います。

Q5:でも、それは諸外国でも同じでは?
A5:スウェーデンでは捕捉率82%、ドイツは64.6%、フランスは91.6%ですね。

Q6:「国からお金をもらうのは恥ずかしい」という感覚があるのですが……
A6:捕捉率が高い国は、だからこそ「恥をかかなくてもいい」ように制度設計をしているのです。日本も制度の内容自体は先進国並みですが、申請に至るまでの心理的バリアが高すぎます。

Q7:扶養義務というのを聞いたことがあります。子どもが働いていたら、子どもに扶養してもらわなければならないので、生活保護は受けられないのですか?
A7:扶養義務には、生活に余裕がある限り面倒をみなければならない「強い扶養義務」と、社会的に体面を保てる程度の生活を送り、なおかつ余裕がある場合にできる範囲で扶養する「弱い扶養義務」があります。親が子どもを扶養するのは「強い扶養義務」ですが、子どもが親を扶養するのは「弱い扶養義務」なので、合理的な範囲で仕送りしてもらっている程度ならまったく問題ありません。

Q8:でも、お笑い芸人の母親が生活保護を受けているというので、前にバッシングがありましたが……
A8:あれは完全に「イケニエ」ですね。生活保護のことを何も知らないシロートがわあわあ言っているだけで、不正受給でもなんでもありません。

Q9:でも、不正受給って多いんでしょ?
A9:2010年の不正受給率は、1.8%。金額ベースだと0.4%以下。これを「多い」と言われたら、どうしようもありませんね。

Q10:生活保護を受けたいと思うのですが、役所の窓口で追い返されないか心配です。どうすればよいでしょうか。
A10:「申請書を書いて持っていく」ことです。そして、生活保護の申請をしたいと明確に言うことです。

Q11:それでも「受理できない」って言われたら?
A11:それは違法行為になります。「※※役所の対応として『受理できない』ということを紙に書いてください」と言いましょう。

Q12:身体的に働ける状態だと、生活保護は受けられないんですか?
A12:実際に働く場がなければ受けられます。

Q13:私は働いているのに、生活保護を受けている人より収入が低い。あいつらはもらいすぎでは?
A13:それはアナタの収入が低すぎるだけです。むしろ、資産の状況にもよりますが、生活保護を受けるべきです。働きながらでも大丈夫ですよ。

Q14:一人で申請に行くのが不安なのですが……
A14:「自立生活サポートセンター・もやい」のような支援団体がいくつもあります。窓口に同行してくれることもありますので、相談してみては?


さて、上に挙げなかった大きなポイントがある。

役所の対応、つまり「われわれ」側の問題だ。本書では、冒頭の札幌市白石区の孤立死事件をはじめ、役所側の対応のまずさが人を死に追いやってしまった事例がいくつも挙げられている。「役所の人間」の一人としては、耳が痛い。

相手の知識の程度によって、使える制度を出し惜しみしたり、相談しに来た人に、生活保護を申請できることすら教えず「相談」扱いで追い返したり……。同じ自治体職員として恥ずかしくなるような対応ではなかろうか。著者が言うように、生活保護の相談窓口は「命の瀬戸際」なのだ。

ただし、本書は一方的な役所バッシングの本ではない。むしろ、具体的に「使える制度」として、生活保護について徹底的に紹介する一冊といえる。それも「14歳の世渡り術」のシリーズとして。だから上のようなQ&Aが成り立つのだ。

そのことには大きな意味がある。なぜなら生活保護は、上にも挙げたとおり、現代の日本で生き残るための最後の手段なのだから。なのに学校で生活保護について教えられることはない。情報を持っていない人が圧倒的に多い。申請できることさえ知らないまま、バッシングの報道だけが耳に入り、自分とは無関係の制度だと思ってしまう。そして貧困に至り、最悪の場合は餓死することさえある。

そうならないよう、「生きるための最後の手段」である生活保護について若い人にしっかり伝えようとする著者の姿勢は、とてもまっとうなものだと思う。学校で副読本として配ってもいいくらいの一冊だ。巻末には「申請書」の様式と記入例までついていて、至れりつくせりにもほどがある(褒めてます)。

生活保護なんて自分とは関係ない」と思っている人、必読。