【93冊目】橋本治「『わからない』という方法」
- 作者: 橋本治
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2001/04
- メディア: 新書
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橋本治の著作は、読むたびになんだか奇妙な感覚にとらわれる。いい加減なようで緻密、大胆不敵、独創的で既成のジャンルのどこにもあてはまらないような本が多い。本書はそういった著作が生まれるまでの、「わからない」ということをテーマにしつつ、そこから自らの力で論理を掘り下げ、展開してゆくプロセスの一端を提示する。
「編み物の本」が生まれるまでのエピソード、「エコール・ド・パリのドラマ取材」も面白いが、私が特に圧倒されたのは、「桃尻語版枕草子」つまり女子高生言葉による「枕草子」を書き上げるまでの過程であった。この手の作品、どんなに正確に、緻密に「翻訳」をしてもふざけているとしか思われないであろうに、著者はそのために古典の背景、書き言葉と話し言葉、性による言葉の違いなどについて考察し尽くし、そこから得られた独自の視点から一言一句に至るまで徹底的に翻訳を行っているのである。
その出発点になっているのも、やはり、国文学者らが「分かっている」と思い込んで見落としているさまざまな点を「わからない」というスタンスから洗い直し、とことんまで考え、調べつくした結果なのだ。「わからない」の重要さ、偉大さである。「分かっている」と思っているところにこそ、実は誰も見つけていない金脈があるのである。それを探し、丁寧に掘り続ける、地に足のついた知的粘着力において、橋本治は図抜けている。軽妙な文章の中に多くのサジェスチョンが詰まった本。