自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1667冊目】伊藤周平『子ども・子育て支援法と保育のゆくえ』

子ども・子育て関連三法の解説書を探していたのだが、手ごろなものがなかなか見つからず、批判スタンス全開ではあるが本書を手に取った。批判が悪いワケじゃないのだが、新しい制度の枠組みや流れを知りたい場合、入口はニュートラルな「解説書」のほうが良い。

ちなみにいまざっとamazonで検索してみたら、田村和之・古畑淳『子ども・子育て支援ハンドブック』がよさそう。読んでないのでなんともいえないけど、こっちにしてもよかったかな。

とはいえ本書も解説自体は非常に分かりやすく、新たな制度の概要をつかむには悪くはない。キモはやはり「措置から契約へ」という介護保険障害福祉で起きてきた変化の流れが、保育の分野にも及んできたというところだろう。

本書の説明に沿ってまとめると、現在の保育所利用の流れは、こうだ。まず、保育所利用を希望する保護者は居住地の市町村に申し込む。市町村は入所要件を調査し、申込みのあった子どもが「保育に欠ける」状態であると認められれば、やむを得ない事由がない限り「入所決定」を行う。著者はこれを「保護者(子ども)と市町村との契約(公的契約)という形態をとりながらも、市町村に、保育の実施義務がある」(p.28)仕組みであると説明する。

それが新制度では、こう変わる。まず保護者は「保育の必要性の認定」を市町村に申請し、市町村は認定を行って認定証を交付する。保護者はその認定に基づいて保育利用を申し込み、市町村は利用調整の上、利用可能な施設の紹介を行うとともに、施設に利用の要請を行う。保護者は当該施設・事業者と直接契約を行うが、私立保育所については従来どおり市町村との契約となる。

よくわからないのが公立保育所の扱いで、これも本書の説明から引用すると、政府資料の自治体向けQ&Aでは市町村との契約になっているが、同じ政府資料でも「子ども・子育て関連三法について」(http://www8.cao.go.jp/shoushi/kodomo3houan/pdf/s-about.pdf)では、公立保育所は直接契約のほうに入れられている。というか、そもそも後者の資料だと、なんで私立保育所だけ市町村との契約になるんだろうか。

パッとみて感じたのは、契約の問題もあるが、まずは認定という手続きがけっこう大変そうだな、ということ。これも多分、介護保険の要介護認定の発想なのだろうが、本書でも指摘されているとおり、介護保険は認定調査を行うためにかなりのマンパワーが割かれており、それでも要介護度や支給サービス量をめぐる争いが絶えない。保育の場合はそういう蓄積もソフトインフラもないから、いきおい市町村自らが認定行為を行うことになるのだろう。しかも保育の場合、入所調整の都合があるので認定時期も一極集中だ。大丈夫なのかな。

他にも幼保連携型認定こども園や地域型保育給付など、いろいろ気になる点はあるのだが、それにしても問題は、この制度設計からは、結局こうした制度をつくることによって「何がやりたいのか」がまるで伝わってこないことだ。

制度を作られた方々には申し訳ないのだが、どうも理念も理想といった熱いモノが、ここからは全然感じられない。本書は「アンチ子ども・子育て関連法」だから感じられないのかと思って政府資料も見てみたが、やっぱり同じだった。

だいたい3法の趣旨をみてびっくりした。「自公民3党合意を踏まえ、保護者が子育てについての第一義的責任を有するという基本的認識の下に、幼児期の学校教育・保育、地域の子ども・子育て支援を総合的に推進」というのである。

問題は「保護者が子育てについての第一義的責任を有するという基本的認識の下に」というフレーズだ。いや、このこと自体は全然否定するつもりはないし、むしろ当然だと思うのだが、それにしたって、わざわざ法の趣旨の一行目に書くことだろうか。政府や行政には責任はありませんよ、といきなり逃げを打っているようにしか読めないではないか。

だからかどうかわからないが、法の中身もあまり一貫性が感じられない。待機児童の問題をこの制度によってどう解決するのか、幼保連携型認定こども園を作ることで何がやりたいのか、全然分からない。制度としては理解できるが、その向かっているベクトルが謎なのだ。

果たして著者の批判が妥当なのか。本書からは読み取れない意義や目標が、この制度にはあるのか。どうも煮え切らない部分の残る読書だった。ただ、繰り返しになるが、制度説明はたいへん分かりやすい。政府資料だけではピンとこなかった部分が、いろいろ見えてくる。

子ども・子育て支援ハンドブック