【29冊目】川上弘美「センセイの鞄」
- 作者: 川上弘美
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2004/09/03
- メディア: 文庫
- 購入: 6人 クリック: 56回
- この商品を含むブログ (353件) を見る
川上弘美のエッセイは何度か読んだことがあるが、小説ははじめてだった。
文章がとても良い。あわてず騒がず、ユーモラスに淡々と物語を綴っているだけなのだが、しんとした静かな調子の中に何かを訴えかける力がある。そのためか、筋立て自体はわりと平穏に進んでいるにもかかわらず、だれずに読むことができた。
また、「センセイ」と「わたし」の会話が見事である。親愛の情に満ちた、どこかとぼけた味わいが、ひとつひとつの言葉から鮮やかに伝わってくる。会話のリズム、スピード感が話者によってはっきりと変わり、それ自体が、「センセイ」と「わたし」の特別な関係を描き出している。
また、夢のシーンなど、時折挿入される幻想的な描写が、小説に深みと複雑さを与え、えもいわれぬ味わいを醸し出している。うまくいえないが、日常であって非日常、リアルであってファンタジー、という感じだ。明治になって萌芽した近代小説を思わせる、上質の小説だと思う。