【2038冊目】川上弘美『どこから行っても遠い町』
東京の下町の小さな商店街を舞台にした、連作短編小説。
描かれているのは、平凡と言えば平凡な風景であり、人間模様。でも、そんな一見平凡に見える風景にも、数限りない小さな波風があり、葛藤があり、悩みがある。
本書に収められている小説はどれも、大きな事件を描くことで埋没してしまうような、そんな小さな、さざなみのような出来事を丹念に切り取り、見事な「料理」に仕上げている。
日々の平凡な暮らしの中に生まれてくる、小さな違和感。でもそれが、心の中でだんだん大きく育ってくる。そんな微妙な心の動きを、著者は空気の粒のように、見えないけれど確かにあるものとして描く。日常こそがもっとも大きな非日常であり、平凡こそがもっとも異様な非凡なのかもしれない。本書を読み終えて感じたのは、なぜだかそんなことだった。