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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1213冊目】アルフレッド・ベスター『願い星、叶い星』

知る人ぞ知るSF界の鬼才、ベスターの短編集。「ごきげん目盛り」「ジェットコースター」「願い星、叶い星」「イヴのいないアダム」「選り好みなし」「昔を今になすよしもがな」「時と三番街と」「地獄は永遠に」を収録。

どれもたいへん斬新な内容で、てっきり現代の作家かと思っていたら、本書の「訳者あとがき」によれば、なんと1913年の生まれ、作家としての「同期」がハインラインアシモフだという。加えて興味深いのは、デビュー当初はそれほど作家としては振るわず(本書収録の作品でいえば「イヴのいないアダム」と「地獄は永遠に」がこの時期のもの)、一度SF界を遠ざかって、なんとアメリカンコミックのシナリオライターに転じたんだそうだ。そこで売れっ子作家になったベスターは、さらにラジオやテレビ番組の台本制作に身を投じ、その後、再びSFの世界に舞い戻ったという。

そんなベスターの描く世界は、本書を読む限り、SFと言ってもダークでブラックユーモアに富んだものが多い。そこでは、未来はどちらかというと悪夢に近いものとしてあらわれる。読んでいて思いだしたのは、手塚治虫のSFのうちダークな系統のやつ。夢も希望もない終わり方の奥に、人間と文明、科学に対するおそろしく冷めた洞察がうかがえる。

どれもかなり個性的な短篇だが、印象に残ったのは、まず冒頭の「ごきげん目盛り」。狂ったアンドロイドとその所有者ヴァンデルアーに「わたし」というひとつの主語がかわるがわる使われているのが、異様な読中感覚を引き起こす。「あせるな! あせるな!」「落ち着け落ち着け」のリフレインが、いかにも狂った感じで怖い。

表題作「願い星、叶い星」はラスト一行が鮮やか。こちらはスティーヴン・キング星新一、といった感じ。「イヴのいないアダム」は、一応「地球滅亡モノ」と言うべきか。ラストで思わぬ深みにまで連れて行かれる忘れがたい一篇。「昔を今になすよしもがな」はやはり地球滅亡モノだが、こちらは男と女一人ずつが生き残ったという設定。荒涼とした風景が印象的。

ラストできっちりとオチをつけ、そこでブラックな世界観を提示するというスタイルのものが多い。そのテイストが好みにはまれば(私はかなりハマった)楽しめるであろう一冊。もっとも、かなり個性的であることは確かで、その意味で読者を選ぶ作家かもしれない。