【1212冊目】幅允孝・千里リハビリテーション病院監修『つかう本』
- 作者: 幅允孝,千里リハビリテーション病院
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2009/12
- メディア: 単行本
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「脳卒中などのリハビリに効く本を集めたい」という千里リハビリテーション病院のオファーに応じて、ブックディレクターの幅允孝氏が、面白い本棚を作った。その中から、リハビリに「使える」部分を抜き出して一冊にまとめたのが、この本だ。
実用本と言えば、これほどの実用本はない。しかし、面白いのは、ここに集められた本が「リハビリのために書かれた本」ではなく、まったく関係のないものばかりであるところ。それも、本そのものが強烈に魅力的なのだ。画集や写真集もあれば詩集もあり、言葉遊びの本もあれば図鑑もある。私の場合、画集や写真集関係はなかなか手に取らないだけに、まったくノーマークのオモシロ本が満載で嬉しくなってしまった。
ちなみに、個人的にツボだったのは、「顔に見える」モノの写真をいろいろ並べたキテレツな写真集『フェイス・フェイス・フェイス!!』(フランソワ&ジャック・ロベール)、鳥の後頭部をひたすら撮った『bird』(Roni Horn)、醤油を入れる魚型の容器やヤクルトの空き容器、マヨネーズの蓋などに雑草を生けた『草かざり』(かわしまよう子)、イラストが絶妙の回文の本『ダンスがすんだ』(フジモトマサル)、街の看板で般若心経を構成した『アウトドア般若心経』(みうらじゅん)、家族でコスプレ写真を撮りまくったシュールな『浅田家』(浅田政志)などなど。
しかし、なぜそういう本がリハビリに適しているのだろうか。幅さんはこう書いている。
「そこ(注:病院)では、誰もが小学生のときにやった国語ドリルやリハビリ専門ブックが使われていました。だけれども、昨日まで大人の世界で懸命に仕事をしていた人にとって、急に小学一年生の国語からやり直しを迫られるようなことは、想像を絶するストレスです。しかも、それらは決して自発的にページをめくりたくなるような種類の本ではなく、リハビリすることを目的化した教材でした。書き取り練習のために、冬場に「スイカ」と書かなければならないのは、とても不自然なことに思えました」(本書「まえがきに代えて」)
そこで幅さんが選んだのが、「教材《にも》なる本」だったのだ。本書に取り上げられている本は、真正面から「教材」として書かれているわけではないがゆえに、そこに独特の「アソビ」が生まれている。じっさい、この本をパラパラめくっていて楽しいのは、その内容やセレクションが、実に遊び心に満ちていて、リハビリ患者じゃなくても、実際に手を動かしてみたくなるところ。読むだけではもったいない、本を使った絶妙な「遊び」の至芸が、ここにある。
そして、その奥に感じられるのは、リハビリをする人を「一人の人間」として尊重する監修者の姿勢。それは、申し訳ないのだが、リハビリをする人を「患者」として見てしまう医療関係者には、なかなか持てない見方なのかもしれない。