自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【525冊目】立岩二郎「てりむくり」

てりむくり―日本建築の曲線 (中公新書)

てりむくり―日本建築の曲線 (中公新書)

「てりむくり」とは、著者によれば日本独特の、屋根のカーブラインの形状をいう。「てり」は「照り」で、「反り」のこと。「むくり」は「起こり」で、盛り上がった形である。この「反り」と「盛り上がり」が、ひとつづきのきれいな曲線を描いたものが「てりむくり」である。寺院などの唐破風によく見られる形状で、独特のやわらかい存在感をもっている。

それだけなら、てりむくりは単に日本建築上の特徴にすぎないのだが、本書が面白いのは、この「てりむくり」が世界に類のない日本独自の形状であることを検証したうえで、これを日本文化論にまで敷衍しているところである。日本文化といっても、いわゆる「侘び寂び」のほうではなく、縄文土器や日光東照宮などの、炎のようにダイナミックな力をもつ日本文化の系譜である。そこには、たとえば落ち着いた包容力と活発なエネルギーのような、一見矛盾する「照り」と「起こり」の要素が一体のものとして存在する。このことを著者は日本文化の他に代え難い特性であると位置づけていく。言い換えれば、「てりむくり」の形状は日本文化を具現化したものであり、そこに、おおげさにいえば日本の精神そのものが凝縮していることになる。要するに、本書は一見すると建築関連の本のように見えるが、実はきわめて興味深い日本文化論の本なのである。