自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2551冊目】加藤徹『貝と羊の中国人』

 

貝と羊の中国人 (新潮新書)

貝と羊の中国人 (新潮新書)

  • 作者:加藤 徹
  • 発売日: 2006/06/16
  • メディア: 新書
 

 

京劇の研究が専門という著者による中国論。緻密というよりむしろラフスケッチ風なのだが、中国のような巨大で複雑な相手を扱うとなると、このくらい大雑把なほうが全体像をつかみやすい。それと、中国論なのだが、それが同時に日本論になっているところが面白い。書かれているのは主に中国のことなのだが、その「異同」にフォーカスすることで、合わせ鏡のように日本のことが見えてくるのである。

 

気になったのは、国名のくだり。ふつう、国名は「固有名詞(地域呼称)」+「立国理念(政治体制)」の組み合わせでできている。「アメリカ合衆国」しかり、「フランス共和国」しかり。ところが中国(中華人民共和国)という国名には、地域呼称が入っていない。中華とは「世界の中心に花が咲く」ということであり、つまりこれは理念だけでできている国名なのだ。一方、わが国の国名は「日本国」。こちらは(「日本」が地域呼称といえるかはともかくとして)「立国理念」が入っていない。日本は「王国」でも「帝国」でも「共和国」でもないのである。こういう国もまた、世界的にみればレアである。中華思想という理念を国名のど真ん中に据えた中国と比べると、両者の違いが見えてくる。

 

善玉と悪玉の違いも興味深い。日本の歌舞伎やマンガでは、悪玉だったキャラクターが後から善玉に変わるということがよく起きる。だが、中国では善玉は善玉、悪玉は悪玉で、両方が入れ替わることはほとんどないという。ちなみに中国にとって、近現代最大の悪玉は「日本鬼子」である。中国の反日感情には、こうした善悪観も影響しているようである。

 

とはいえ、この反日感情自体も、決して見た目通りではないというからややこしい。本書のタイトルにも関係してくるところだが、中国は昔から「ホンネとしての貝の文化」と「タテマエとしての羊の文化」を使い分けてきた。貝とは古代の貨幣である子安貝を、羊はかつて生贄として用いられたもので「礼」や儀式を意味している。中国人は強烈なイデオロギー(羊)を振りかざす一方、しっかりと実利(貝)は取る。中国で反日プロパガンダが流された時も「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」は普段通り放映され、日本商品も普段通り売れていたらしい。

 

中国の「多重性」はそれだけではない。支配者が変わっても士大夫という中間支配層は変わらず国の根幹を支えてきた(その基礎を作ってきたのが「科挙」という究極の人材発掘システムだ)。一方では同じ国、同じ時代でも、南北、東西で別の国のように異なる文化や生活様式をもつという一面もある。そんな捉えどころのない大きな「隣人」を理解するうえで、本書は格好の一冊だ。そして何より、冒頭に書いたとおり、中国を理解することは、日本という国を理解することにもつながってくるのである。