【226冊目】堀江敏幸「雪沼とその周辺」
- 作者: 堀江敏幸
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/07/30
- メディア: 文庫
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「スタンス・ドット」「イラクサの庭」「河岸段丘」「送り火」「レンガを積む」「ピラニア」「緩斜面」の7篇が収められた短編集。いずれも書名のとおり、時代に取り残されたような山間のしずかな町「雪沼」とその周辺が舞台となっている。
登場する人々はさまざまだが、共通する点もある。昔ながらのボーリング場、レコード屋、大衆食堂など、昔ながらの店や事業を営む人々であること、中年から老齢に差し掛かる年齢であること、時代に抗する気概があるとまでは言わないが、世の中の流れに無理について行こうとせず、それよりも自分の心にある何か大切なものや日々の暮らしを大事にしてきたこと。日々を淡々と平凡に積み重ねてきた彼らの静かなまなざしと言葉は、押し付けがましくはないが、読んでいてどこか心の深いところにすとんと落ちてくるような感覚がある。
何よりもよいのが、この「雪沼」という場所そのものが、こうした人々を暖かく包むような、気ぜわしさのないゆったりとした空気に満ちていることだ。一見、日本のどこにでもありそうな小さな町だが、実はこういうところが今の日本人にとってのユートピアなのかもしれない。