【2823冊目】小山聡子『もののけの日本史』
もののけ(本文中では「モノノケ」)と言えば、多くの人が思い出すのは映画『もののけ姫』でしょう。
でも、そもそも「モノノケ」ってなんなんでしょうか。
この世の栄華を極めた藤原道長が、モノノケを恐れるがあまり錯乱状態になっていた。
本書は、そんな話から始まります。
それくらい、当時のモノノケは、人に病気や死をもたらす、リアルに恐ろしい存在でした。
かつて「モノノケ」は「物気」と書かれていたそうです。
「物」とは今でいう物体のことではなく、「神を成す元、あるいはその力」を意味していました。
一方「気」は「霊や鬼が発し、目に見えず漂う性質を持ち、触れると病や死をもたらすもの」。
モノノケとは、いわば病や死をもたらす超自然的な力のことだったのです。
藤原道長の時代も、モノノケは加持祈祷により折伏されることがありましたが、
中世にはこれが「退治」される存在となり、
さらに近世以降は、幽霊や妖怪とも混ざり合い、フィクションとして娯楽の対象となり、現代に至っているそうです。
おもしろいのは、普通に考えれば、近代化の中で「迷信」として退けられ、排除されてもおかしくないはずのモノノケが、むしろ現代になって存在感を増しているところ。
一方では「自然を守る神」として描かれ(たとえば『もののけ姫』に出てくる山の神々)、
もう一方ではキャラクター化され、人間と共存する存在として表現される(たとえば『ゲゲゲの鬼太郎』『妖怪ウォッチ』)。
だいたい、コロナ禍という新たな状況にあっても、早々に「アマビエ」なるモノノケが登場し、親しまれるようになるくらいです。
日本人の「モノノケ好き」は、まさに筋金入りといえるでしょう。
古代から現代に至るまで、日本人の生活は常に、モノノケと共にありました。
本書はそのことを、膨大な文献から明らかにするとともに、いわばモノノケを映し鏡にして、日本人の精神世界の変遷を描き出す意欲的な一冊なのです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!