【2821冊目】宇佐見りん『かか』
『推し、燃ゆ』が芥川賞となった宇佐見りんさんのデビュー作です。
そういえば最近、最新作も出ましたね。
この現代日本で、新刊がこんなに話題になる作家なんて、他には村上春樹くらいなのではないでしょうか。
さて、本書ですが、
19歳で書かれたとは信じられないほど、すでに独自の世界というか、空気感をもっています。
まず、全体が、「おまい」(お前)に向けた語りかけからなっています。
『推し、燃ゆ』の畳みかけるような怒濤の一人語りとは違う、ゆったりとして落ち着いたテンポですが、
それでもやはり、読み手を巻き込んでいくような独特のパワーがあります。
舌足らずの語り口ですが、その中に突然
「うーちゃんには昔から自分のなかにだけ通じる不文律があって、そいは法律や世間にある倫理観なんかとはぜんぜんべつの規則性をもって自分自身を支配しています」
のように、硬い言葉が放り込まれます。
ある種のアクセントのようになっているのですが、全体としてはシームレスにつながっている。
このあたりの文体感覚は天才的です。
全体のトーンは、初期の頃の川上未映子、あるいは町田康あたりを思わせます。読むうちにだんだんハマっていくというか、トランス感覚に支配されていくような。
一方、内容はたいへん現代的で、切実です。
両親は父の浮気で離婚、母(かか)は酒を飲むと大暴れします。
主人公は、ないがしろにされてもなお母と離れられない19歳の「うーちゃん」です。
うーちゃんは、突然、家を出て熊野に行くことを思い立ちます。
この「熊野」というセレクションに、新旧渾然としたおもしろさを感じます。
もちろんSNSも登場します。「推し」の話題も出てきて、このあたりは次回につながる要素を感じました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
#本 #読書 #宇佐見りん #かか