【2687冊目】村木厚子『公務員という仕事』
元・厚生労働事務次官という肩書からは意外なことに、この本にはとても好感がもてた。おそらくとても真面目で、でも適度なユーモアがあって、温かい人柄なのだろう。そのことは本書からしっかり伝わってくる。
若者向けの「ちくまプリマー新書」からの一冊ということで、ひらたくいえば公務員就職推奨本である。極端な長時間労働や政治家への「忖度」問題など、最近とみに人気が落ちているという国家公務員の仕事の現場を紹介している。悪いところは悪い、としっかり指摘しつつ、全体としては著者自身の経験から、公務員という仕事のやりがいや楽しさを伝えるものとなっている。
「外との接点をたくさんもつ」ことを何度も薦めているのがすばらしい。家庭や職場外の友人、民間主宰の勉強会、趣味に地域の活動。それはよくいわれる「ワーク・ライフ・バランス」というようなことだけではない。視野を広げ、世の中のさまざまな「現場」を知ることが、ともすれば抽象的になりやすい「政策立案」のプロセスに血を通わせるのである。ちなみに厚生労働省も、最近は福祉現場の第一線で働いている人を一本釣りで引き抜いて政策をつくる仕事をさせていることが多く、前とちょっと変わって来たかな、と思うことも少なくない(まあ、それでもいろいろ不満はあるけれど)。そのあたりも、著者らの活動の影響が及んでいるのかもしれない。
「ライスワークからライフワークへ」という言葉も良く聞くが、あらためて大事なことだと思う。特に異動が頻繁な公務員業界では、なかなか自分の「ライフワーク」をもつことは難しい。やはり短い期間でも、これと思うテーマがあれば、そこに自己のすべてを全力で投入するという経験が必要なのだと思う。そうやって一度深入りしたテーマとは、そこから異動した後でも、つき合いのあったNPOなどの活動への参加、関係者のネットワークへの参加など、意外に何らかのかかわりを持ち続けられるものである。
セクハラ対策の研究会を立ち上げようとしたら「セクハラというのは週刊誌ネタで、神聖なる予算要求の企画書にセクハラという言葉を載せることはできない」と言われて企画書内の「セクハラ」という文字を全部消したり、生活困窮者自立支援法の中に「社会的な孤立」という言葉を入れようとしたら、内閣法制局から「社会的孤立と困窮が直接的に結びつくわけではない」と言われたりと、今ではちょっと考えられないような政策立案時のエピソードもたくさん書かれており、外からはなかなか知り得ない政策立案の現場をチラ見することもできる。
個人的にはこういう企画立案の仕事より現場のほうが数倍面白いと思うので、なるなら基礎自治体の職員をおススメしたいが、霞が関に就職したいと思っている人は一度覗いてみるとよい。また、著者は今よりはるかに女性として組織の中で働くことが大変だった時代に入庁し、事務次官にまでなった人であるから、女性の公務員志望者であれば、本書を読んで勇気づけられることも多いことだろう。そして、国家でも地方でもいいから、ぜひご自身の「ライフワーク」に出会ってほしい。本書はそのためのヒントがたくさん織り込まれた一冊でもあるのである。