自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1661冊目】高橋滋編『シリーズ自治体政策法務講座2 執行管理』

シリーズ 自治体政策法務講座 第2巻執行管理 (シリーズ自治体政策法務講座)

シリーズ 自治体政策法務講座 第2巻執行管理 (シリーズ自治体政策法務講座)

こないだ読んだ「自治体政策法務講座」のシリーズ2冊目。テーマは「執行管理」ということで、主に事務執行・法や条例の執行プロセスに重点を置いた一冊だ。

執行の場面、ということは行政の現場そのものがテーマということであり、それだけ扱われている内容も幅広い。ちょっと面白いのは、実際の行政活動としてスタンダードな「窓口対応」が最後の章で、第三セクター等のガバナンスや民間委託が前の方に来ているところ。まあ、それぞれの著者の専門領域がたまたまそのあたりだったということなのかもしれないが、役所そのものが自ら執行する業務より、他の団体が行政を担う局面のほうが先に来るというあたり、なんだか時代を感じる。

テーマに関して網羅的にバランスをとって書かれたものから、その著者の関心に沿ってかなり深く突っ込んだものまで、アプローチは著者によってさまざまだ。読んでいて知識の整理や勉強になるのは前者だが、面白いのは、当然後者の方。個人的には、個人情報保護・情報公開について「死者情報」「公務員氏名」の取扱いについて絞り込んだ第4章、公文書管理について独自の視点で切り込んだ第5章が印象に残った。

第4章について言えば、死者情報の扱いは現場レベルではいろいろ悩ましい点が多いのだが、そもそも条例の規定レベルでかなりバラツキがある、というのがちょっと意外だった。本書の解説は、条例に規定がある場合とそうでない場合を分け、さらに想定される個別の事案ごとにあるべき対応を考察しているので、どの自治体の方にとっても参考になる点が多いだろう。

それにしても、「死者と開示請求者の利益不一致」と書かれているが、そもそも「死者にとっての利益」とは何なのだろう。死者の情報は、いったい誰のために守られるべきなのだろうか。なんだか読んでいていろいろ考えさせられてしまった。

第5章についてもちょっとだけ。この章は、たぶん本書の中でもっとも著者個人の主張や見解が前面に出ている点で、他の章と比べてもやや異質なトーンになっている。

著者は、公文書を単に歴史学的・アーカイブス的視点から捉えたり、情報公開・個人情報保護との関連で論じるだけでは不十分として、公文書管理を「"人"としての公務員・行政官の仕事そのものを映し出す"鏡"」と位置付け、いわば公務員の仕事の仕方そのものが公文書には反映されている、と考え、そうした主張を前面に押し出している。

そうした観点からすれば、当然「公文書管理のあり方を規律することは、行政の活動のあり様すなわち公務員の仕事の仕方を規律することにほかならない」(p.157)ということになる。さらには「「組織としての説明責任」と「組織共用文書」は"表裏一体"のものとして理解されなければならない」(p.159)。確かに著者の言うとおり、行政プロセスは基本的に文書によって動いていくものであるし、そうでなければならないのだから、公文書管理とは行政活動そのものであろう。

他にも本書では危機管理、行政評価などが法務と絡めて論じられており、いろいろ触発される点の多い一冊。第9章の「窓口法務」なんて、内容的にはそれほど目新しいものではないが、「窓口法務」という切り口が面白いと感じた。

シリーズ 自治体政策法務講座 第1巻総論・立法法務 (シリーズ自治体政策法務講座)