【1501冊目】乙一『箱庭図書館』
- 作者: 乙一
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2011/03/25
- メディア: 単行本
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短編集なのだが、タダの短編集ではない。なんとここに収められている6つの短篇は、どれも読者のボツ原稿を乙一がリメイクしたものなのだ。集英社WEB文芸「RENZABURO」の企画である。
なので、本署は残念ながら本だけ読んでもあまり真価はわからない。もちろん短編集として独立した一冊であるし、クオリティもそれなりのものはあるのだが、それだったら乙一オリジナルの作品を読んだ方がずっといい。
本書の醍醐味は、やはり元々の「ボツ原稿」がどんなふうにリメイクされたかという、その比較にあると思う。その意味で、元原稿をWEB上(http://renzaburo.jp/8528/)でしか見られなくしてしまったのは、ちょっといただけない。できればもっとフォントを小さくした上で3段組みにして、上段に乙一リメイク、中段に乙一のコメント、下段に元原稿としたほうが面白かった。
はっきりいって、元原稿はかなりヘタなものばかり。発想はそれなりだが、文章が説明調だし、会話はぎこちないし、なるほど、新人賞の下読みっていうのはこういう作品ばっかり読まされてるんだろうな、と同情させられた。たしか誰か(久美沙織だったかな)が、新人賞の原稿のほとんどは大半が冒頭の数行で文句の余地なくゴミ箱行きだと言っていたような気がするが、うんうん、確かにそうだろう。よくわかった。
ところがそんな、一見して箸にも棒にもかからない原稿が、乙一の手にかかるとどうなるか。まず説明口調が減る。自意識べったりの独白調がなくなる。そのかわり、描写がすべてを語り出す。シロウトが10行つかっても伝わらない主人公の心情が、ちょっとしたしぐさや言葉、文字数にしてわずか数文字でスパッと伝わる。
細かい「添削」だけではない。ひとつのエピソードを分散して作品全体に散らしたり、元々のアイディアをぐるっと転換したり。たとえば「ホワイト・ステップ」では、会話中心でダレ気味だったのが、登場人物を「歩かせる」ことでメリハリを出し、コンビニ強盗ネタの「コンビニ日和!」では、警察官がたまたまコンビニに入ってくるというエピソードを新たに入れることでドキドキ感が加わる。ネタバレになるのであまり詳しくは書けないが、乙一がオリジナルで付け加えた「ワンダーランド」のラストのオチも見事。なんと全体がちょっとした叙述トリックになってしまっている。
ということで「リメイク」といっても、本書のそれはほとんど「劇的!ビフォーアフター」レベル。壁を壊し床を抜き、全然違った建物をつくってしまう乙一マジックだ。しかも元原稿にあったちょっとしたエピソードや小ネタのうち、良いものは活かして巧みに取り込んでしまうところがうまい。乙一の描写力はもともとかなりハイレベルなのだが、本書はアイデアを他人から借りている分、余計にそのセンスが際立って見える。
ということで本書は、小説家志望者の必読書。プロットの組み立て方からエピソードの挿入の仕方、描写で語る方法から会話のリズムまで、丁寧に読めば読むほど本書は宝の山である(できれば自分で元原稿をリメイクしてから読んでみるとよい)。ボリュームは増えても三段組みにすべきだったと思う理由もそこにある。くどいようだがこの本に限っては、本だけ読んでも、ダメ。付録の別冊でもいいから、元原稿を付けるべきだった。