hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2682冊目】宇佐美まこと『展望塔のラプンツェル』


こないだ読んだ『羊は安らかに草を食み』がとても良かったので、同じ著者の作品ということでコチラを読んでみました。


いやあ、驚きました。同じ作者とは思えないほど、「羊」とはまったくトーンが違います。にもかかわらず、クオリティの高さは「羊」に匹敵。こんなことってあるでしょうか。


「羊」は認知症の老女を中心に、現在と過去を重ねて描くロード・ノヴェルでしたが、本書は多摩川市という架空の街が舞台で、ある意味この街というトポスそのものを描いています。


児童相談所の職員を中心に児童虐待への対応をリアルに描くパート、家を出たと思われる口を利かない幼児を育てる少女ナギサと少年カイのパート、不妊治療に取り憑かれたように取り組む郁美ら夫婦のパートから成り立っており、それぞれ児童虐待、荒廃した街のアウトローの世界、不妊治療をめぐる夫婦のすれ違いが描かれています。


ひとつだけでもヘビーなテーマが三重奏のように重なっているため、読んでいて気が滅入る部分もありますが(特にナギサに対する虐待や暴行の仕打ちはひどかった)、それでもどこか、一筋の希望のようなものが感じられるのが不思議です。そんなわずかな希望のシンボルが、街にある展望塔と、その上から金色の髪を垂らしてくれるラプンツェルのイメージです。


本書のテーマは、ある意味はっきりしています。家族、あるいは親と子のあり方です。なぜ子どもを虐待する親がいるのか。なぜ親に見捨てられ、兄にレイプされた少女が、なぜ親のギャンブル代を稼ぐため風俗で働くのか。なぜ夫の愛情を失ってまで不妊治療にのめり込むのか。親子とは、家族とはいったいなんなのか。


そして迎える、驚きのラスト。「ハレ」の正体に気づいた時、読んでいて感じた数々の違和感がするするとほどけるような感覚が味わえます。なるほど、そういうことだったのですね。そんなふうに、人はつながり、支え合って生きていくのですね。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!