自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2248冊目】押川剛『「子供を殺してください」という親たち』

 

「子供を殺してください」という親たち (新潮文庫)

「子供を殺してください」という親たち (新潮文庫)

 

 

文庫本の表紙をはじめて見た時は、恥ずかしながら、児童虐待がテーマの本だと思い込んでいた(コミックス版の表紙の方が、はるかに本書の内容に近い)。読んでびっくり、本書のタイトルにある「子供」は、実は大人である。いや、親にとっては子供はいつまでも子供なのであるが、そういう意味ではなく、これは大人になり切れず、あるいは引きこもり、あるいは暴れ、あるいは部屋をゴミ部屋にしてしまった「半・子供」についての一冊なのである。

明らかに異常な行動が見られても、本人は入院は絶対したがらず、家族の説得にも応じない。いや、そもそも本書に出てくる「家族」は、誰をとってみても実に「家族」らしくない。困っていてもどこか他人事のようで、子供に向き合わず、解決を丸投げし、言っていることはコロコロ変わる。読めば読むほど、これでは子供もたまったものではあるまい、と思えてくる。

そんな親たちから依頼を受け、子どもたちを説得して医療につなげる役割を担うのが、本書の著者が展開する「精神障害者移送サービス」なのである。今、簡単に「説得」と書いたが、この人たちが行う説得はハンパではない。5時間にわたる話し合いで入院に同意したケースもある。だが、大事なのは時間だけではない。

第一章「ドキュメント」では、弁護士の両親をもつ慎介への対応が紹介されている。入念なリサーチやシミュレーションを踏まえ、相手が目を見返してきたタイミングをとらえ、ここしかない、というポイントに、著者は絶妙の言葉を浴びせる。「慎介! 調子が悪そうだな! 病院に行くぞ!」

そこにはもちろん、テクニックだけではない、事前の情報収集から、相手の感情の奥底にストレートに光を当てるタイミング、そして相手を一人の人間として尊重する姿勢から、今後のかかわりを予想される気迫まで、すべてが高い次元でかみ合っている。ケースワーカーをやっていると、この手の説得に苦労することも多いのだが、本書の事例はまさしく名人芸。読んでいて鳥肌が立った。

他にも入院後の課題(特に3か月という退院期限の問題)から、冒頭にも書いたような親の問題まで、課題はとにかく山積している。だが、誰かがやらなければならないのだ。そうしなければ、本人も苦しく、家族も苦悩することになってしまう。この「誰かがやらなければならない」問題を実際に行い、解決に結びつけている著者の姿勢には、まったく頭が下がる思いである。