【2594冊目】坂口恭平『徘徊タクシー』
認知症の人の「徘徊」というのは、本当に徘徊なんだろうか、そこには何か別の意味や目的地があるのではないか。だったら、そういうお年寄りを乗せて時空を超える「徘徊タクシー」をやろう、というのが表題作。急に思いついて盛り上がったり、介護施設の人にちょっと厳しく言われるとあっという間に落ち込んだり、というのがいかにも躁鬱の症状で、でもそこで試しにやってみると、思わぬ出会いや発見がある。
主人公は著者自身で、著者個人のことはあまり知らないが、たぶんかなり重なり合っているのだと思う。併録されている「蠅」は、なんだかカフカか阿部公房を思わせる奇妙なテイスト。「避難所」は娘ナオとのやりとりがいい。自分の子どもが小さかった頃を思い出して、ちょっと懐かしかった。