hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2595冊目】コルソン・ホワイトヘッド『地下鉄道』


アメリ南北戦争の前、奴隷制が合法だった時代が舞台。主人公のコーラは3世代前からの奴隷で、ジョージアの農場で働かされているが、あまりに過酷な環境に耐えかね、「地下鉄道」の力を借りて脱走を試みる。


「地下鉄道」とは、歴史上は南部でひそかに奴隷の逃亡を助けていた人々のコードネームであるが、本書では実際に「地下のトンネルを通って奴隷を逃す鉄道」が描かれている。読んでいてすっかりそんなものがあると信じてしまったが、これはフィクション。本書は史実に忠実な作品ではなく、虚実が入り混じった作品なのである。


コーラの運命は逃亡後も過酷なものだ。一緒に逃亡した仲間は行方知れずとなり、屋根裏にコーラをかくまってくれた白人夫婦は縛り首になる。その後も黒人居留区にたどり着き、束の間の平穏な暮らしを手に入れるが、ここもまた白人自警団によって皆殺しにされてしまう。


これほど何度も希望を裏切られ続けると、私ならすっかり諦めてしまいそうだが、コーラは最後まで諦めず生き延びようとする。その奮闘ぶりには圧倒されるが、一方でアメリカ南部の黒人への仕打ちは、身の毛がよだつものばかり。


捕まった逃亡奴隷は生きたまま焼かれ、あるいは死ぬまで鞭打たれ、あるいは衆人環視のなか縛り首だ。その名も「自由の道」という道路沿いには、首を吊られた黒人の死体が延々とぶら下がっている。しかも、逃亡奴隷には懸賞金がかけられ、それを目当てに奴隷を追跡するプロがいる(コーラを探し、追い詰めるのもリッジウェイという追跡者だ)。


この南部アメリカの状況に似ているものを探すとしたら、後年のナチスが行ったユダヤ人狩りくらいだろう。そんな蛮行を平然と行うアメリカとはなんなのか。著者はこのように告発する。


アメリカこそが、もっともおおきな幻想である。白人種の者たちは信じているーこの土地を手に入れることが彼らの権利だと、心の底から信じているのだ。インディアンを殺すことが。戦争を起こすことが。その兄弟を奴隷とすることが。この国は存在するべきではなかった。もしこの世に正義というものがひとかけらなりともあるならば。なぜならこの国の土台は殺人、強奪、残虐さでできているから。それでもなお、われらはここにいる」(p.440)


昔の話だと思われるだろうか。そうではない。この本に書かれた話と、トランプ大統領(やっと「元大統領」になってくれそうだが)の登場と、BLACKLIVESMATTERの運動は、「同じ話」なのである。アメリカを読み解くには、その血みどろの負の歴史からはじめなければならないのだ。