自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2013冊目】佐藤優『知の教室』

 

 佐藤優「全部入り」の一冊。

読書術や情報収集術から教養論、リーダーシップ論、宗教論、文明論、さらにはお得意のロシア分析までが縦横無尽に展開されている。外交官時代のソ連分析も掲載されており、ゴルバチョフからエリツィンまでのソ連崩壊を砂かぶりで見てきた著者ならではの洞察は、今読んでも十分に深い。

単独の論考と対談や鼎談が組み合わさっているのも面白い。その相手も情報収集術は池上彰、文明論は山内昌之、読書論は斎藤美奈子、検察とのバトルは堀江貴文、福島論は玄侑宗久と豪華絢爛。中でも驚いたのは、塩野七生との鼎談(あと一人は『イスラーム国の衝撃』の池内恵)が載っていたこと。ちなみに、別の意味でびっくりしたのは、伊藤潤二とのホラーマンガ対談。佐藤優がホラーマンガにこんなに詳しいとは知らなかった。

あらためて再確認できたのは、国際政治のトップレベルもビジネスもインテリジェンスの世界も、すべて人間と人間の関係によって動いている、ということだ。それだけに、人間を知ることは、どの分野においても決定的に重要である。その点、佐藤優の人間洞察力の深さと鋭さには驚かされることが多い。

例えば、学校秀才型にはインテリジェンスの世界は合わないという。その理由は「怖いものがない」ことが多いから。インテリジェンスの世界は、どこまでも無節操になれる世界であるがゆえに、何でも思い通りにできると高を括ってしまうのが危ないという。そうならないために大事なのは「何か怖いものがある」こと、なのだそうだ。おそらくこれは、インテリジェンスの世界だけの話ではあるまい。

思わずうなったのは、明治期の対ロシア情報戦で活躍した明石元二郎について、予算として与えられていた巨額の金(今の価値で数十億から二、三百億円)の使途をすべて手帳につけていたという水木楊の話に対して「それはお金をやりすぎないためだ」と佐藤優が即答したくだり。いろいろな工作をする時に、相手に金をやりすぎると、相手の金銭感覚も麻痺するし、急に金回りがよくなってスパイだとバレやすくなる。だから相手を値踏みして、学生だったら百万円渡してはダメで、「ビッグマックをおごってあげて、二千円くらいの図書券をあげればいい」そうだ。う~ん、なるほど。

作家生活10年目となる著者がいろんなところに発表した論考がベースになっているので、民主党政権時代のことが書いてあったりしてある程度のタイムラグがあるのだが、それを差し引いても十分にエキサイティングな、佐藤優のエッセンスが詰まった一冊である。佐藤優ならまず『国家の罠』と『国家論』だと思うが、そのべらぼうな知力の幅と深さを知りたければ、本書を手に取ることを勧めたい。

 

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

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国家論―日本社会をどう強化するか (NHKブックス)

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