hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2559冊目】本田秀夫『発達障害』

 

 

発達障害と一口に言っても、自閉スペクトラム(ASD)や注意欠如・多動症ADHD)などさまざまなタイプがある。そうした様々なタイプの「重複」がテーマである、と「はじめに」に書かれているので、やや専門的な内容かと思っていたが、読み終えた時点での印象としては、発達障害に関する基本的な事柄をていねいに取り上げた一冊。ASDやADHDなどがもつ特徴についても、しっかり解説されている。

 

そもそもこうした重複の存在を著者が強調せざるを得なかったのは、発達障害の診断や支援の現場で、個々の類型にあてはめて対象者を理解するといった対応が行われていることが多いためと思われる。もちろん、そのこと自体は相手を理解するための「手すり」として必要だ。しかし、それが行き過ぎると、かえって相手の特性を見誤り、支援がうまくいかないといったことになりかねない。そこで、複数の類型の「重複」といった考え方、捉え方を補助線として引く必要が出てくる。

 

本書の前半は、こうした「重複の事例」の解説がメインだが、一方後半では、発達障害の特性に応じた「環境調整」の方法や、当事者自らができる発想の転換のパターンを数多く紹介している。こちらもたいへん重要な内容だ。

 

まずすべての基本となるのは、「苦手な能力の底上げより、その部分を補完する方法を考える」ことである。著者はここで「黒板を釘でひっかくような音」を例に挙げる。「黒板を釘でひっかく音が苦手? だったら、何度も聞くことで克服しましょう!」と言われたら、あなたならどう感じるだろうか。発達障害の人にとっての「苦手」とは、実はこのくらい克服が難しい、生まれつきの特性なのだという。

 

だったら「苦手な部分を補完する」にはどうすればよいか。ひとつのポイントは、その特性をそのまま「強み」として捉えて活かす方法を考えることだ。たとえば、不注意でミスをしても気に病むことがなく、ミスを繰り返してしまう人は、「うまくいかなくてもへこたれない」という強みをもっているとも言えるだろう。そのため、営業職などに就けば、商談を断られてもめげずに次の相手に挑戦することができるかもしれない。もちろん事務上のミスは避けられないだろうが、「自分はミスが多い」ことをあらかじめ周囲に伝えればある程度はカバーできる可能性がある。その上で、へこたれずめげないという「得意分野」を活かして貢献することを考えればよい。

 

あるいは、興味の対象がすぐに目移りしてしまい落ち着きがないという人はどうか。これを長所として捉えれば「思い立ったらすぐに行動に移せる」「行動力やアイディアが豊富」ともいえるだろう。そのため、新たな企画や事業を立案する部署なら活躍できるかもしれない。もちろん、ある程度形になったら、別の人に引き継いで完成してもらえばいいのである。

 

そううまくいく事例ばかりではないだろうが、大事なのはこうした柔軟な考え方を、当人だけでなく周囲の人たち(特に人事系の人たち)がもつこと、そして多様性を大事にすることだ。だからこそ、著者は発達の特性を「なんらかの機能の欠損としてとらえるのではなく、『〜よりも〜を優先する』という『選好性(preference)の偏りとしてとらえたほうが自然なのではないか」(p.212)と指摘するのである。

 

こうした選好性を持つ人は、確かに全体からすれば少数だろう。だが、そうした少数派のためになんらかの配慮ができる社会、個性のデコボコが当たり前に存在する社会のほうが、実は多くの人にとっても生きやすいのではないか。発達障害の人たちによって試されているのは、ひょっとするとわれわれの社会そのものなのかもしれない。