自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2570冊目】借金玉『発達障害サバイバルガイド』

 

 

 

 

サバイバルガイドというと、なんだかジャングルにでも行くみたいだが、本書の舞台は普段の仕事や生活そのもの。だが、決して大げさなタイトルではない。発達障害の当事者にとって、この現代社会はある意味でジャングルそのものなのだ。本書は、そんなジャングル的現代社会での「がんばらない」「意識低い系」を徹底した一冊。発達障害当事者として「つまづきやすいポイント」を熟知した著者ならではの具体的なアドバイスがすばらしい。

 

著者のやり方はきわめてシンプルだ。食器が洗えず溜まってしまうなら、食洗器を買え。部屋が散らかるなら、定位置が決まっていないモノを一つの箱にぶっこめ。家計簿がつけられないなら、クレジットカードに支出を一元化せよ、等々。いっさいの努力を求めず、とことんまで「やり方」で解決しようとするスタンスには、感心を通り越して感動さえ覚える。

 

著者がこうしたアドバイスを行うのは、多くの発達障害の方々が「怠けている」「努力が足りない」などと言われ続け、自分でもそう思い続けてきたことの裏返しである。著者はこのように書いている。

 

「どうか『自分は怠けている』という結論に安住しないでください。できないことはできない、ないものはない。いつだってそこから始めていくしかないのです」(p.91)

 

そんなスタンスで書かれた本書は、実は「発達障害以外」の人にもとても役立つものとなっている。少なくとも私は(自分自身がやや発達障害傾向である、ということもあるけれど)、著者のアドバイスでかなり気持ちが楽になり、生活上のヒントをもらった。

 

たとえば、一日にやるべきことを一つの箱に突っ込んでおく「エブリデイボックス」。飲むべきクスリ、読みかけの本、払わなければならない請求書などを、一つの箱にまとめておくという、ただそれだけのライフハックなのだが、これだけで「やるべきことを忘れない」プレッシャーや「払い忘れ、やり忘れ」のミスから一挙に解放される。しかも必要なコストは、100円ショップでも買えそうな、中身の見える箱一つだけなのである。

 

あと、考え方で一番「刺さった」のが、「『休む』は意志の賜物、『頑張る』は惰性」という言葉(p.253)。とりわけ「頑張る」ことが礼讃されがちな職場では、この考え方はとても大事になってくる。多少疲れていたとしても、周りに気を遣って休むより、「頑張って」出勤してしまったほうが実はラクなのだ。だがこの「頑張るという惰性」の積み重ねが、私たちの身体や心を徐々に壊していく。さらに休みの日も、何かしら「有意義に」過ごそうとか、普段できなかったことをやろうとして予定を詰め込んでしまい、結局全然休めない、ということになってしまう。

 

だから「休むのは意志」なのである。月に2日は「完全に休む日」を設けることを著者は推奨する。この「『休む』は意志の賜物、『頑張る』は惰性」という言葉、職場の標語として貼り出しておきたい。

 

発達障害向けと言いつつ、多くの人に役立つという理由が、少しおわかりいただけただろうか。その意味で本書は、「ライフハックユニバーサルデザイン」的一冊なのである。読めば必ずや、しんどい人生が少しだけラクになりますよ。