自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1773冊目】松村亨『自治体職員のための契約事務ハンドブック』

自治体職員のための契約事務ハンドブック

自治体職員のための契約事務ハンドブック

私が知らなかっただけかもしれないが、契約事務をテーマとしたコンパクトな解説書って、ありそうであまりなかったような気がする。

分厚い本ならいくつか出ているが、正直、契約担当課の職員でもなければ、そこまで「深入り」はしたくない。むしろ契約に関するちょっとした疑問や考え方を、基本に戻ってきちんと整理する助けになるようなテキストがあれば良いのになあ、と前から思っていた。本書はそんな思いにぴったりの一冊。書店でみかけて、その「サイズ」に飛びついた。

モノを買ったり印刷を発注したり、講師を依頼したり清掃業務を委託したりと、「契約」は自治体業務のかなりの部分を占めている。というか、特に庶務系の職場では、日々の業務の「実働」の部分の大半は、何らかの形で「契約」であるといっても過言ではない。

にもかかわらず、契約に関する規定って、ちゃんと知ろうと思うとけっこうややこしい。民法の基本原則を知らないと話にならないし、さらに地方自治法の規定が絡んでくるため、そのあたりの関係まで整理しておかなければならないからだ。ところが、民法の総則と債権法だけでも、ちゃんと学ぼうと思うとかなりボリュームがあるし、理解だってカンタンではない(ホントかどうか知らないが、かつての司法試験志望者の多くが挫折するのが民法の債権法だと聞いたことがある)。

本書は、広い広い民法の中から、実務に必要な部分に絞ってピンポイントで解説してくれている。もっとも、独特の法律用語や民法独特の考え方がいろいろ出てくるので、あわせて初学者用の民法入門書などがあるといいかもしれない。

さらに自治体契約独特の「シバリ」については、法の規定だけではなく判例にも言及しつつ、かなり突っ込んだ議論がなされている。このあたりは、ある程度実務を知っていると、かえっていろいろ唸らされる部分が多いように思う。「なぜ地方自治法ではそうなっているか」という理由の説明もていねいになされており、分量の割に充実した内容となっている。

まあ、実際問題、ここに書かれていることをすべて頭に入れて契約事務にあたる、というのは、さすがになかなか難しい。だが、最低限の民法と自治法の規定を眺めておくだけでも、実務をやっていて「あれ?」と疑問に思うきっかけにはなると思う。あれ、なんかこれって違う気がするな、あれ、これってホントに大丈夫かな、と。

この「あれ?」と思えるセンサーを持っているかどうかが、実は契約事務だけではなく、行政実務全般でとても大事な要素なのである。そのためには、慣例とマニュアルだけに頼らず、必ず原則的な法の規定と考え方に遡るクセをつけておくしかない。

本書は契約事務という汎用性の高いテーマを通して、実務の基本的な考え方と「ルール」を知るためのテキストにもなっている。自宅というより、各課に一冊、職場の本棚に並べておきたい本だ。