自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【769冊目】山川肇・植田和弘編著『ベンチマーキングで変える! 自治体のごみ管理』

自治体のゴミ管理―ベンチマーキングで変える!

自治体のゴミ管理―ベンチマーキングで変える!

ベンチマーキング手法を清掃事業に適用する場合の手順や考え方を解説した本。ずいぶんニッチなテーマ選択であるが、ごみ管理に限らずベンチマーキング手法全般に広く応用できる内容をもっており、なかなか「使える」一冊である。

ベンチマーキングというと「模倣」「パクリ」をカッコよく言い換えただけ、という程度にしか思っていなかったのだが、実はなかなか奥が深い。まず、比較対象となる自治体の選び方から始まり、比較事業の見方、尺度の置き方といったデータ比較のテクニックから、具体的なアンケートやヒアリングのやり方まで、懇切丁寧に解説されている。特にアンケートの作り方や得られたデータの分析手法などは具体例まで掲げられていて、大変勉強になった。さらに驚くべきことに、付録として関連ホームページが案内されている。なんとこのHPで、特性値分析や「優れた事例の探索」が実際に行えるようになっているのである!

ベンチマーキングに関する解説の中では、「プロセス・ベンチマーキング」というやり方が面白い。これは、事業の中の特定のプロセスのみに注目してベンチマーキングを行う手法であり、全く異なる事業を対象にして行うこともできる。本書で挙げられている例を引けば、「航空会社が飛行機を運航する事業のうち、飛行機の給油・整備プロセス」を取り上げて、「自動車レースの給油・整備プロセス」を対象にベンチマーキングを行うのである。このやり方を応用すれば、ある自治体が行うある事業の中の特定のプロセスだけを取り出し、他の自治体はもちろん、同じ自治体の異なる事業や、民間会社の事業から取り出した類似のプロセスと比較することができる。うまく「プロセス」を取り出すことさえできれば、ものすごく応用範囲の広い方法である。

民間では、企業間競争があるためノウハウの共有が難しい(その分、他社のノウハウを得ることに貪欲)のに対して、自治体の場合、むしろノウハウを教えあうという「文化」がある(逆に、競争がないため、眼の前にすぐれたノウハウが転がっていても誰も手を出さない、ということになりがちである)。しかし、他自治体との比較はこれまであまり「方法的」に行われてはこなかったように思う。本書が提示しているのは、まさにその「方法論」の部分。地方が自ら考え、事業を実施していかなければならない今だからこそ、ごみ管理に限らず、あらゆる行政分野において知っておくべき内容が書かれた一冊である。