自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2420冊目】ブライアン・クリスチャン&トム・グリフィス『アルゴリズム思考術』

 

アルゴリズム思考術:問題解決の最強ツール (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

アルゴリズム思考術:問題解決の最強ツール (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 

悩むことが必要なこともある。だが、悩む必要のないことで時間を費やすのはばかげている。そのために役に立つのがアルゴリズム。コンピュータ用語と思われがちだが、実はアルゴリズムとは「問題解決に用いられる有限な一連の手順」(p.15)にすぎない。言い換えれば思考の手順書、問題解決の方程式がアルゴリズムなのだ。

 

例えば「理想の結婚相手」について。今、目の前にいる人よりいい人は、果たして今後現れるだろうか? そんな悩みこそ、アルゴリズムにお任せあれ。これは「最適停止」問題と呼ばれるもので、その答えは「37パーセント」。出会う人の総数が100人だとすれば、37人目まではひたすら見送り、その後は、それまでよりいい人が現れたらその人に決めるべし、なのだ。出会う人の総数が分からないって? なら例えば、20歳から40歳までの間に結婚したければ、20年間の37パーセント、だいたい7年目まではどんな素晴らしい相手であってもひたすら見送りなさい。27歳になってから「今まで会った人よりマシな人」に出会えたら、それが「運命の人」なのだ。

 

あるいは、今の仕事を続けるべきか、転職すべきか悩んでいたとする。いくつかのアルゴリズムがあるが、簡単なのは「後悔」に着目するやり方だ。たとえば80歳になった自分を想像して「今の仕事を続けた場合の後悔」と「転職した場合の後悔」を比較し、「後悔を最小化する」選ぶのである。ジェフ・ベゾスはこの方法で大手書店を辞めてアマゾン・ジャパンを立ち上げたらしいが、これは多腕バンディット問題という問題の解決法のひとつでもある。ポイントは「後悔のない選択」ではなく「後悔が最小である選択」を行うこと。それは言い換えれば、その選択によって得られる利得を最大化することでもあるのである。

 

ちょっとホッとすることも書かれている。例えば書類整理について、本書は野口悠紀雄の「超・整理法」を紹介し(使い終わった書類を常に「一番左側」に戻すというアレだ)、これはコンピュータのキャッシュにおける「最長未使用時間法」の原理を発展させたものであると指摘する。一見無秩序に見えるこのやり方は、実は「書類の自己組織化を促している」のである。ということは「机の上にうずたかく積み上がった書類の山は、罪悪感をかき立てるよどんだカオスなどではなく、じつはこのうえもなく巧みに設計された効率的な構造」(p.180-181)なのである! ああ、こんなに褒めてしまっていいのだろうか。

 

他にも本書は、スケジューリングについて、少ないサンプルから確率を知る(例えば、一度だけ買って当たったくじから、そのくじの当選確率を推測する)方法について(ベイズの法則、ラプラスの法則)、何かを考える時にどれくらい多くの要素を考慮に入れるべきか(考える量を少なくした方がうまくいくこともある)、オーバーフローしてしまった仕事にどう対処するか(インターネットのパケット送信における「加法的増加・乗法的現象」のアルゴリズムを活用する=増やせる限界まで仕事を「足して」いくが、減らす時は乗法的に=例えば、いきなり半分にするなど極端に減らす)など、われわれが仕事や日常生活でぶち当たるさまざまな問題を取り上げ、それぞれに適したアルゴリズムを提示する。

 

もちろん、われわれに無限の時間とリソースがあれば、こんなアルゴリズムは必要ない。だが、残念ながら時間は有限だし、その中でできることは決まっている。そんな制約のもとでわれわれに何ができるか、どのようにすればせめて最大の効果を挙げられるか。そのためにアルゴリズムが役立つのは、考えてみれば当たり前のことだ。コンピュータやインターネットの発展とは、まさに限られたCPU、限られたメモリ、限られた転送速度の中で効果を最大化する試みの繰り返しの上に築かれたものであって、そこで活躍したのがアルゴリズムなのだから。